夢枕に立った父「ようやっとるな」
2024年、仁田さんは経営者として大きな転機を迎える。
8月に「尾道ラーメン 吾一」を新店オープンした。続く12月に「牛ちゃん尾道店」を、負債も含めて正式に買い取る形で引き継いだ。先代オーナーの遺志を次の世代につなげるためだ。ゆくゆくは従業員に譲りたいと考えている。スタッフの中には子供たちもいる(子供は亜美さんとの子を含め、計5人)。
融資総額約1億円。
この“借金”の額を、仁田さんは従業員に包み隠さずに打ち明ける。誰ひとりとして深刻な顔をしない。辞めない。むしろ意欲的になりその場を盛り立てる。「今までもやったんじゃけ、絶対に返しちゃろうや」と仕事に励む。
「広島市内のイベント出店のとき、朝5時に尾道を出発し、430食完売して帰る車のなか『戻ったら当然(翌日分の仕込みを)作りますよね!』とかアイツら言うんですよ。頭がおかしいですよね(笑)」
スタッフたちのノリの良さと笑い声に救われつつも、「本当に今のやり方でいいのだろうか」と仁田さんはひとり揺れる。
2016年に先代オーナー、翌2017年に父が、立て続けに亡くなった。喪失感を抱えたまま前だけを向いて必死に働いてきた。2人から教わった「義理と人情」を何よりも大切に突っ走ってきたつもりだ。
時折、父と先代オーナーに相談したくなる。約10年経って初めて、2人が一緒に夢枕に立った。父は「ようやっとるな」と一言、その隣で先代オーナーは変わらぬ穏やかな笑顔で仁田さんを見つめていたそうだ。


