“雇われ店長”に、1100万円の融資
しかし、独立するにはある程度まとまった資金がいる。一体どうやったのか。
ここでも騒動を機に、仁田さんをバックアップした人物がいた。しまなみ信用金庫高須支店支店長の笹井建希さん(48)である。
笹井さんは、牛ちゃんの2軒隣にある尾道支店の当時次長で、牛ちゃんラーメンの美味しさに魅了されていた一人だった。
騒動後、店舗への電話、来客減など風評被害を目の当たりにした笹井さんは、この先の深刻な影響を懸念する。
「このままだと、仁田さんの生活基盤ごと危ないと思いましたね」(笹井さん)
仁田さんは赤字店再建中の2009年、29歳の時に同じバツイチ2人の子持ちの亜美さん(当時25歳、現在41歳)と再婚した。騒動当時は一家は店舗2階に住んでいた。店も住居も“借り物”。関係悪化によって退去を求められれば、商売だけでなく生活も同時に失う心配があったという。
とはいえ、情だけで動いているわけではない。濃縮でないストレートスープの製造には独自性があり、エブリイでの販売許可も取得済みで、事業の将来性を高く評価していたことも、ラーメン事業の分離支援を後押しする大きな要因だった。
笹井さんは仁田さんと2人で吾一の事業計画書を作成し、まずラーメンセット製造の設備投資のための1100万円を、2カ月後に融資実行した。その後も現在の吾一の店舗兼住居となる物件を紹介し、その取得のため約3000万円の追加融資を決定したという。
「仁田さんは店長として牛ちゃんの運営にまっすぐに取り組み、行列店に成長させた経営者ですから。あなたの積み上げてきた実績なら必ず返せる額だと伝えました」
スーパーと信用金庫が力を貸したワケ
実際に、2〜3カ月ごとに取り扱い店舗が増え、年末にも「年越しラーメン」と名打ったセットが大ヒットし、笹井さんの狙い以上に業績は上々だった。
しかし、羽原さんも、笹井さんも、なぜ仁田さんのためにここまで動けるのか。ふたりの仁田さんへの評価はほぼ共通していた。
「正直でまっすぐで、人柄の良さは抜きん出ています。お店はいつも活発で雰囲気が良く、チーム作りがとてもお上手だなと尊敬しています」(羽原さん)
「今どきの若い子たちって(マネジメントするのが)簡単じゃないと思うんです。でも仁田さんは時間をかけてちゃんと向き合う。なかなかできないことだと思います」(笹井さん)
仁田さんもまた、「僕にとって従業員は大切な家族」と語る。そこには、仁田さんの父と先代から受けた原体験が土台にある。


