“中国産の最強AI”が開発されたらどうなるか

そもそも、現時点でAIによるサイバー攻撃のレベルはどこまで上がっているのだろうか。

直近で大きな話題を集めたのが、米アンソロピック(Anthropic)の「Claude Mythos Preview」だ。同社は2026年4月7日、Claude Mythos Previewを新しい汎用言語モデルとして発表し、コンピューター安全保障の作業で際立った能力を示したとして、Project Glasswingを立ち上げた

では、そのMythos Previewはどの水準のサイバー能力を持つのか。Anthropicがプレビュー公開と同時に発表したフロンティアレッドチームの技術解説によれば、同社は、Mythos Previewが、主要な基本ソフト(OS)や主要ウェブブラウザの実コードを対象に、利用者が指示した場合、ゼロデイ脆弱性(開発者すら把握していない未知の欠陥)の発見と悪用まで行えることを確認したと説明している。加えて同社は、責任ある開示のために人間の専門家による検証を進めている高・重大度の脆弱性を数千件規模で特定したとしている。

象徴的なのが、MozillaのFirefoxに対する実験である。前世代のClaude Opus 4.6が数百回の試行で2件しか動作する攻撃コードを書けなかった同じ脆弱性群に対し、Mythos Previewは181件の動作する攻撃コードを自律生成した。Mozilla自身も、Firefox 150のリリースでMythos Previewが発見した脆弱性271件を一括修正したと公表している

さらに、セキュリティ重視で知られるOpenBSDで27年間気づかれていなかった致命的なバグや、動画処理ライブラリFFmpegに16年前から潜んでいた脆弱性まで掘り起こした。英国AIセキュリティ研究所(AISI)の独立評価でも、Mythos Previewは、脆弱な企業ネットワークを想定した32段階の攻撃シミュレーションを、10回中3回、最初から最後まで完遂した最初のAIモデルとされた。ただし同研究所は、この評価環境には実際の防御側や検知ツールがなく、十分に防御された実システムを攻撃できるとまでは言えないとも明記している。

Anthropic自身、こうした攻撃側の能力に鑑みてMythos Previewを現時点では一般公開しないと発表している。

中国のハッカーのイメージ
写真=iStock.com/vchal
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日本を麻痺させる“AI侵略戦争”

では、仮に中国がClaude Mythos Previewと同等のAIモデルを開発し、日本が対抗できる手段を持っていなかった場合、どのような事態が起きるだろうか。

中国が高度な生成AI、大規模言語モデル(LLM)、画像生成、音声生成、自動翻訳、データ分析、サイバー分野の分析能力を統合した場合、日本で起きうるのは、目に見える侵攻より先に来る認知の混乱である。

政治家、官僚、企業幹部、記者、研究者の発言を偽装した投稿、実在メディアに似せた偽ニュース、自治体発表に似た偽の緊急情報、金融機関や大手メーカーをめぐる偽情報が同時に出回りうる。

内閣官房も、生成AIやディープフェイクにより偽画像・偽動画を容易に作成でき、人の目では真偽を見極めにくい情報にソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)等で触れる機会が増えていると注意を促している

AIは相手の反応を観察し、怒り、不安、不信を広げやすい言葉や映像を選び直す。自由な報道、自由な投稿、政府への健全な疑いは民主主義の強みだが、危機時には混乱の経路にもなる。

これはサイバー攻撃の具体的手順の問題ではない。社会が「何を信じて動くか」を奪われる問題である。仮に台湾有事の直前にこれが起これば、日本政府は自衛隊、在日米軍、避難、金融安定、エネルギー確保、世論対応を同時に処理しなければならない。最大の標的は、サーバーだけではない。政府、企業、メディア、国民の間にある信頼そのものだ。