何かを書かないということも、一種の表現行為です。なぜ日本政府が「責任を否定」しているのか、その理由や経緯を説明しないことで、教科書は暗黙のうちに日本を批判しているともいえます。
日韓の教員・学者が共同作成した教材
これに対して、日本と韓国の教員・学者が共同して作成した『日韓歴史共通教材 日韓交流の歴史 先史から現代まで』(明石書店、2007年)では約2ページを費やして、日本の占領行為についての戦後賠償問題と「慰安婦」問題が扱われています。
そこでは、賠償をめぐって起こる訴訟についても言及されています。
「日本政府は、サンフランシスコ講和条約と日韓基本条約によって、国家賠償は決着済みとの公式見解を固持し、個人賠償については、そのほとんどが敗訴している」
つまり、ほとんどの場合個人賠償は認められていないのです。そして、日本政府の見解及び訴訟の帰趨についても具体的に紹介されています。
・サンフランシスコ講和条約(1951年):日本が連合国との間で結んだ講和条約で、賠償問題の枠組みが定められた
・日韓基本条約(1965年):日本と韓国の国交正常化に際して結ばれた条約で、日本が韓国に経済協力資金を提供し、両国間の請求権問題は「完全かつ最終的に解決」されたとされた
・個人賠償請求:条約によって国家間の賠償は解決したが、個人の賠償請求権は消滅していないという議論があり、これをめぐって訴訟が続いている
このように日本政府の立場を説明することで、問題の複雑さが理解できるようになっています。単に「日本が責任を否定している」というだけでなく、「なぜそのような立場を取っているのか」が示されているのです。
日本政府が責任を否定する理由について、その是非はともかく一定の説明がなされているのは、先の『韓国史』とは大きな違いでしょう(なお訴訟については、この教科書が執筆されて以降も状況が変わっているため一概には言えません)。

