ロシアの子供たちは、ウクライナ侵攻についてどう教えられているのか。東大生集団「東大カルペ・ディエム」の著書『世界の歴史教科書を読み比べてみた』(星海社)より、紹介する――。
スルプスカ共和国のシニシャ・カラン大統領との会談に出席するロシアのプーチン大統領
写真=Sputnik/共同通信イメージズ
スルプスカ共和国のシニシャ・カラン大統領との会談に出席するロシアのプーチン大統領(=2026年5月9日)

アイデンティティと愛国主義を形成

2023年8月、ロシアで初めての国定歴史教科書が発表されました。『ロシアの歴史 1914-1945年』『ロシア史:1945-21世紀初頭』の2冊です。

編纂を主導したのは、元文化相で現大統領補佐官のウラジーミル・メディンスキー氏と、外交官・諜報員養成機関として知られるモスクワ国際関係大学学長のアナトリー・トルクノフ氏です。

教科書の冒頭には、その目的が明確に記されています――「この教程を学ぶことの最大の結果は学生達にロシア市民アイデンティティと愛国主義を形成することになるはずだ」。

この言葉からは、この教科書は客観的な歴史の記述ではなく、国家が望む歴史観を植え付けるための装置として設計されているものだと、暗に示されているようにも感じられます。

そして実際に中身を見てみると、ロシアの教科書は客観的な記述というよりも、ロシアの愛国主義を作り上げる装置としての機能を感じる部分も多く、実際、同様の指摘はイギリスのニュースメディアBBCからもありました。

そしてこの教科書では、2022年からのウクライナ侵攻についても触れられています。本稿ではロシアの歴史教科書が語る愛国主義について、具体的な記述をもとに見ていきます。

プーチンが大統領に就任すると教育は一変

まず前提として、ロシアの歴史教育は、ソ連時代とは大きく様変わりしています。

ペレストロイカ期のソ連では、生徒が史実に対する異なる解釈の存在を知り、史料に基づいて自ら歴史を分析する能力を身につけることが重視されていました。

1990年代のエリツィン政権下でも、この方針は継続されていました。この年代までのロシアの歴史教育は、他の国の歴史教育とあまり変わらなかったと考えられます。

しかし2000年にプーチンが大統領に就任すると、状況は一変します。ソ連崩壊後の混乱、経済の低迷、アイデンティティの危機……こうした中で、プーチンは国民統合の手段として愛国主義の高揚と歴史記憶の政治的利用に注目したのではないかと考えられています。

その背景には、2003年のジョージアの「バラ革命」、2004年のウクライナの「オレンジ革命」といった旧共産圏における民主化運動「カラー革命」で、青少年層が政権交代の主役となったことが、ロシア政権に大きな衝撃を与えたのではないかという説があります。