異なる解釈を許さない単一の歴史認識

欧米諸国の自由・民主主義の価値観に同調するロシアの若者は、プーチンの考える「一体不可分のロシア」にとって脅威と映ったのではないか、そしてそれがロシア政府に歴史教育の方向転換をさせるきっかけになったのではないかというのです。

2009年、メドヴェージェフ大統領(当時)はロシアの国益を損なう歴史捏造の試みに対抗するための対策委員会を設置しました。2012年には「ロシア歴史協会」が設立され、教科書の統一が本格化します。

クレムリンの壁と冬の夕暮れ時の聖ワシリイ大聖堂
写真=iStock.com/Andrey Danilovich
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2014年には、ニュルンベルク裁判で確定したナチス・ドイツの戦争犯罪の否定や、第二次世界大戦時のソ連の活動について「虚偽の情報」を流布する行為に対して高額の罰金を科す法律が成立しました。

こうして、異なる解釈を許さない単一の歴史認識に基づいた教科書の作成が国家プロジェクトとして推進されるようになったのです。その成果こそが、現在使われている教科書『ロシア史:1945-21世紀初頭』なのです。

軍事行動は「人類を救う世界史的使命」

教科書には次のような記述があります。

「ウラジーミル・プーチン大統領がウクライナに対する『特別軍事作戦』を開始していなければ、人類の文明はおしまいだったかもしれない」

つまり、ロシアによる主権国家への侵略戦争が、「人類の文明を救う行為」として描かれているのです。この論理は、単なる自衛や地政学的利益の追求を超えて、ロシアの軍事行動を「世界史的使命」へと昇華させています。

教科書は、もしウクライナがNATOに加盟してから「クリミアかドンバスで挑発行動を起こし紛争を仕掛けていたら」、ロシアはNATO全加盟国と戦争になり、「そのようなことになれば、文明の終わりだったかもしれない」と主張しています。

つまり、第三次世界大戦を防ぐために先制攻撃が必要だった、というロジックです。