世界中を席巻した日本発の大作ゲーム
日本のゲーム業界が誇る才能の一人が、フロム・ソフトウェア社長の宮崎英高氏だ。
米文芸誌のニューヨーカーが2022年、同氏の歩みを詳しく伝えている。静岡で育った宮崎氏は慶應義塾大学を卒業後、米IT企業オラクルに勤めたが、2001年頃に出会った名作ゲーム『ICO』に感銘を受けたことで、大胆なキャリアチェンジを決意。オラクルから大幅な減給となることを厭わず、当時無名だったフロム・ソフトウェアに29歳で転職した。
そこで才能が開花。行き詰まっていたプロジェクトを一から立て直し、2009年にアクションRPG『デモンズソウル』として世に出す。高難度の戦闘と繰り返し死んでは学んでいくゲームスタイルで話題を席巻すると、続く『ダークソウル』で同社を一躍、世界のトップスタジオに押し上げた。
2022年には、広大なオープンワールドを探索しながら強大なボスに挑む西洋テイストの高難度アクションRPG『エルデンリング』をリリース。丁寧な誘導をあえて排し、プレイヤー自身の手で道を切り拓く歯ごたえある設計が、世界中のゲームファンを熱狂させた。
同年の世界第2位のベストセラーゲームとなる世界的大ヒットを記録し、宮崎氏は翌年、米ニュース誌のタイム「世界で最も影響力のある100人」に選出された。2025年4月には、同作の世界累計出荷・ダウンロード販売本数が3000万本を突破したと発表されている。
米PCゲーマー誌が報じたように、ゲーム開発者がこのリストに名を連ねたのは、2007年の宮本茂氏以来、史上2人目のことだ。世界の政治・文化・ビジネスを代表する人物と肩を並べた2人のゲームデザイナーが、ともに日本人であることは、日本発のゲーム開発哲学の世界的影響力を雄弁に物語っている。
失敗が許されるから挑戦できる
宮崎氏は英日刊紙のガーディアンの取材に対し、開発の規模が拡大すると否が応でも「失敗が許容される余地」が限られていくとの懸念を示した。そのためフロム・ソフトウェアでは、パートナー企業の出資でリスクを分散し、すべてを一つのプロジェクトに賭けない経営を実践する。
あえて小規模なプロジェクト規模に保つことで「失敗できる余白」を意図的に設け、若手ディレクターが挑戦から学ぶ機会を守っているという。
経営が傾けば即座に大量解雇に踏み切る欧米のAAAスタジオ(大型スタジオ)とは対照的に、規模を抑え、人を手放さず育てる。その経営哲学が、世界最高のゲームを継続して生み出す原動力になっている。
もっとも、日本のゲーム業界が常に高い評価を受けてきたわけではない。
2010年、米ニューヨーク・タイムズ紙が運営していたテクノロジーブログ「Bits」に、インタビュー記事が掲載されている。当時カプコンの開発統括本部長だった稲船敬二氏は、東京ゲームショウを見渡し、「日本は少なくとも5年遅れている」と断じた。
自社すら例外ではない。「かろうじて付いていっている状態」と厳しく評し、ゲーム開発への投資が足りないからゲームが売れない、売れないからさらに投資を絞るという「デフレスパイラル」に陥っていると警鐘を鳴らした。

