「奇跡」が生んだゲーム史上屈指の名作

開発にまつわる哲学の違いが最も鮮烈に際立つのは、日米のクリエイターが同じプロジェクトで協働する場面だ。

任天堂作品の中でも史上最高評価を獲得した作品の一つに数えられる、『メトロイドプライム』。日米の開発陣は、その制作過程で文化の衝突を繰り返した。

当時のレトロスタジオは複数のタイトルを並行開発していたが、大半がお蔵入りとなっていた。宮本氏の訪問を機に、メトロイドの開発一本に絞ることになる。

書籍『Metroid Prime 1-3: A Visual Retrospective』で開発の舞台裏を語ったシリーズプロデューサーの田邊賢輔氏は、その誕生を、「奇跡とも呼べる(could be called a miracle)」と振り返っている。

任天堂専門ニュースサイトのニンテンドー・エブリシングが報じた同著の内容によると、開発初期から、レトロスタジオと任天堂は仕様をめぐって対立を繰り返したという。

レトロスタジオが「欧米のスタジオではこう作る」と主張するたび、田邊氏は、「今作っているのは任天堂のゲームだ。しかもレトロにとっては初めての任天堂ゲームとなる」と強調した。「私はキャリア全体を通じて任天堂ゲームに携わってきた。任天堂ゲームを作る経験なら私が最も豊富だ。まずは、信頼してほしい」

テキサス州オースティンにあるレトロスタジオのオフィス外観の写真
テキサス州オースティンにあるレトロスタジオのオフィス外観の写真[写真=Jacob J Casper(UnlivedPhalanx)/PD-user/Wikimedia Commons

すべてはユーザーに楽しんでもらうため

例えば、宮本氏直伝の「敵のビジュアルはその機能性で決めるべきである」という原則も、田邊氏は経験則として感じることはあれど、当時はまだそれほど簡潔には言語化されていなかった。言葉になっていないものを、文化の異なるチームに根づかせるのは容易ではない。

両者が一日中衝突することもあった。翼竜型のボス敵、メタリドリーとの戦闘場面の仕様では、「共通の落としどころが見つからず」、朝から日没まで議論を続けたという。

もっとも、レトロスタジオの発想によって作品が豊かになった場面もある。主人公サムスが球体に変形する「モーフボール」。レトロスタジオはこの場面で、視点をサムスの目線(一人称)から外部のカメラ(三人称)に切り替える演出を提案した。

ただし宮本氏は、提案を受け入れつつ、変形の演出をスキップする機能は却下した。一人称視点が基本の本作で、「サムスを三人称で見られる機会の一つ」を省くべきではないと考えたためだ。

作品の質を向上させ、ユーザーが豊かなゲーム時間を過ごせるよう、あらゆる角度から検討が加えられた。