ライバルの名前は口にも出さない
メカニクスへのこだわりは、他社のゲームに対する姿勢からも見て取れる。アマロ氏はグリクセルのインタビューで象徴的なエピソードを明かしており、シリーズ専門ニュースサイトのメタルギア・インフォーマーがその内容を伝えた。
それによると、2013年に小島プロダクション(コジマプロダクションの前身)に入社したアマロ氏が、広大なオープンワールドで潜入ミッションに挑む『メタルギアソリッドV』の開発に携わった3年間で、西洋のゲームが話題に上ったのはおそらく一度きり。画面に映っていない敵に見つかったとき、それをプレイヤーにどう知らせるかを議論する中で、ユービーアイソフトのオープンワールド型FPSシリーズ『ファークライ』で使われている敵の視界範囲の表示が引き合いに出されたときだけだった。
職人としての誇りゆえ、設計の議論中に他社タイトルの名前はほとんど出ないのだと同氏は語る。欧米のスタジオでは他社ゲームが「毎週、あるいは毎日のように」話題に上がっていたというから、その隔たりは大きい。
赤字でも雇用を守った任天堂役員の覚悟
1ピクセルを追い求め、企画を何度もやり直し、朝から日没まで議論を尽くす。こうした妥協なき開発文化は、なぜ可能なのか。
欠かせない下地の一つに、日本の雇用制度がある。Game8は、日本の労働法の下で企業が解雇に踏み切れるのは、深刻な経営危機に陥った場合に限られると指摘。そのような状況においても、役員報酬の削減や労働時間の短縮、配置転換などの代替コスト削減策をまず模索する義務があると続ける。
それでもなお解雇が避けられないときには、正当な理由を提示し、適切な事前通知と補償を行い、さらに社内での代替雇用先を真剣に模索することが求められる。つまり企業は、何重ものハードルを越えなければ解雇には踏み切れない。
実は家庭用ゲーム機Wii Uの不調に苦しんだ時代の任天堂は、解雇が行われても不思議ではない状況にあった。しかし、当時の岩田聡社長や宮本氏ら経営陣は、代わりに自らの報酬を大幅に削減して従業員の雇用を守った。
雇用が安定しているからこそ、日本のスタジオならではの徹底した品質追求が可能になっている。解雇の心配がない環境であればこそ、開発者は目先の成果に追われず、一つの判断にじっくり向き合い、納得がいくまでやり直せる。
長く同じ組織で働き続けるなかで、マニュアルには書ききれない開発の勘所、いわば暗黙知を蓄え、次の世代へと伝えていく。経営合理化のたびにチームを解散し人材を入れ替える海外スタジオでは、そうした知見が開発の都度リセットされる弱みがある。

