人間以外の生物でも睡眠不足になることはあるのか。総合研究大学院大学統合進化科学研究センター教授の渡辺佑基さんは「面白い例として、アメリカウズラシギの研究を紹介したい。この鳥は他者との競合により、思わず同情したくなるような苛烈な不眠合戦に巻き込まれる」という――。

※本稿は、渡辺佑基『鳥は飛びながら眠る』(中公新書)の一部を再編集したものです。

青い海と空
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10カ月ほぼ飛び続ける鳥たち

鳥の中には、季節ごとに長距離を渡るものが数多いる。たとえばアラスカで繁殖するオオソリハシシギというシギの仲間は、子育てが終わると地球のほぼ裏側、1万キロも離れたニュージーランドまで1週間ぶっ続けの羽ばたき飛行で移動する。

もっと極端なのは、ひらひらと舞うように飛ぶアマツバメの仲間だ。ヨーロッパのアマツバメは子育ての後、アフリカ大陸に渡って冬を越し、翌年の春に戻る。小型センサーを取り付けた調査によれば、繁殖から次の繁殖までの約10カ月間、ほとんど(個体によってはまったく)着地せずにひたすら飛翔し続ける。

こういう鳥たちは、まんじりともせず飛び続けるのか。シギの1週間はまだわかるとしても、アマツバメは10カ月もの不眠に耐えるのか。あるいは空中で飛びながら眠るのか。だとしたら、どうやって、どのくらい?

鳥は飛びながら眠るのか

イルカが半球睡眠という離れ業により、ゆるやかに泳ぎながら眠ることは(本書で)既に述べた。だが、飛びながら眠ること――仮にそれができるとして――の困難さはその比でない。水中では遊泳運動を止めても体が漂うだけだが、空中では翼の動作と精密な姿勢制御を怠ったが最後、失速し落下して死に至る。

常識的に考えて、鳥が飛翔しながら眠れるとは思えないのである。いっぽうで、これも常識的に考えて、鳥が何週間あるいは何カ月もの間、不眠で飛行運動を続けられるとも思えない。

まるで最強の矛と最強の盾がぶつかったらどうなるか、というような難問である。実際、鳥が飛行中に眠るか否かは、生物学の大きな謎の一つとされてきた。

この謎を見事に解決したのは、ドイツの研究者を中心とする国際チームである。彼らは2016年、グンカンドリの睡眠に関する一篇の論文を発表した。グンカンドリは先述のアマツバメと双璧を成す鳥界の飛翔チャンピオンである。熱帯の島々で繁殖する海鳥だが、まるで飛翔力の向上がこの鳥の関心のすべてであるかのような体付きをしている。すなわち翼がグライダー(滑空機)のように細長く、体は軽く、ぎゃくに飛翔に不必要な脚はろくすっぽ歩けぬほどに貧弱だ。そして翼を左右に広げて風に乗り、悠々と海上を舞う。