鳥たちは睡眠不足に耐えている
興味深い結果はまだ続く。
飛行中の断片的な睡眠時間を足し合わせると、1日あたり合計40分程に過ぎなかった。これで十分とは考えにくい。実際、鳥は海から帰って樹上に降り立つや否や、睡眠の借金を返済するように1日に12時間以上も眠った。
つまり飛行中の半球睡眠は、寝るに寝られぬ環境に置かれた鳥が、必要最低限の睡眠をぎりぎり確保するための緊急手段のようなものらしい。もしかしたら1週間の海上飛行から戻ったグンカンドリは、徹夜明けの人間のように頭がふらふらなのかもしれない。
こうして野生動物の睡眠をめぐる大きな謎が一つ解明された。鳥は飛びながらまどろむ。空中で風に乗って旋回しながら、進行方向の目を開け、反対側の目を閉じて半球睡眠をとる。
けれども睡眠は細切れで短く、健康維持に必要な量をたっぷりと確保しているとは言い難い。
重要なことに、空中で眠る鳥はおそらく、グンカンドリやアマツバメのように翼をぴんと伸ばして滑空する鳥に限られる。半球睡眠という離れ業をもってしても、ばさばさと羽ばたきながら眠ることは叶わない。だから多くの小鳥や先述のシギのように羽ばたき飛行で長距離を渡る鳥たちは、不眠状態で飛び続け、地上に降り立った途端にすこんと眠りに落ちるしかない。
たとえ空中で眠れても眠れなくても、海山を越えて飛ぶ鳥たちは睡眠不足に耐えねばならぬようだ。
アメリカウズラシギの「愛憎劇」
動物が睡眠不足を忍ばねばならぬ状況は他にもある。面白い例として、あるシギの仲間の研究を紹介したい。この鳥は他者との競合により、思わず同情したくなるような苛烈な不眠合戦に巻き込まれる。
アメリカウズラシギは毎年夏、アラスカなどの北極圏で雛を育て、その後はるばる南米へと渡る。大陸を縦断する長距離飛行はさぞかし重労働であろうが、もっと大変なのは繁殖期のオスかもしれない。
というのも、一夫多妻制のこの鳥は、少数の有力なオスが多数のメスとつがって卵を産ませるので、オス同士の争いが熾烈なのだ。毎日怠りなく縄張りを巡回し、侵入者がいれば喧嘩をふっかけ、勝って追い返したり、負けて逃げ出したりする。そして暇さえあればメスに近づき、求愛行動に勤しむ。
むろん一夫多妻制の動物は他にもいるが、この鳥が特別なのは、喧嘩と求愛の愛憎劇を北極の夏に繰り広げる点にある。

