10秒~数分の睡眠を細切れにとる
魚を食べる海鳥なのに、海面に降り立つことがないのも風変わりだ。突出した飛翔能力を生かし、口に魚をくわえた他の海鳥を空中で執拗に追いかけ、あちらが諦めて魚を放したところを「一丁上がり」とばかりにキャッチする。
研究チームはガラパゴス諸島を訪れ、子育て中のオオグンカンドリ(グンカンドリの一種)を捕獲し、行動と脳波を計測する機器を取り付けた。鳥は海に出て食べ物を集め、1週間程度で巣に戻る。それを待って再捕獲し、機器を回収してデータを読み込んだ。私には痛いほどわかるが、野生動物からやっとの思いで機器を回収し、データを確認する時のドキドキといったらない。脳波センサーのような新たな試みであればなおさらだ。極度の高揚感と、記録に失敗しているかもしれぬ不安が入り混じり、心臓が早鐘を打つ。
研究チームはまず、GPSのデータをまじまじと見た。グンカンドリが島を出て、ぐるりと円を描いて巣に戻る経路がきっちり記録されていた。一部を拡大すると、海上で風に乗って左右に旋回を繰り返す様子が見て取れた。
次に、「本丸」である脳波の分析に入る。飛行中のデータを精査すると、主に夜間、睡眠のしるしが見つかった。平均して10秒間、長くて数分間の短い睡眠が細切れに記録されていた。チームは快哉を叫んだに違いない。鳥が飛行中に眠ることを、世界で初めて証明したのだから。
進行方向の目を開き、反対側の目を閉じる
しかも驚いたことに、飛行中の睡眠の多くは、脳の片側だけが眠りもう片側が覚醒を保つ半球睡眠であった。カモやオットセイの例で見たように、半球睡眠は外敵を警戒しながら眠ることを可能にする特殊技である。飛行中のグンカンドリを襲う外敵などいないのに、なぜなのか。
脳波と行動のデータを照らし合わせると、謎が解けた。半球睡眠の際に左右どちらの脳が眠り、どちらの脳が覚醒を保つかは、空中での旋回方向によって決まった。右に旋回する際は脳の右側が睡眠に入っており、これは左目が閉じられて右目が開いていたことを意味する。左に旋回する折は、その逆であった。
そう、グンカンドリは進行方向の目を開いて安全を確保しつつ、反対側の目を閉じて脳の半分を眠らせていたのだ。近くを飛ぶ他の鳥やそそり立つ崖に衝突する危険を避けながら、それでも空中で細切れの睡眠をとる。外敵を警戒しながら眠るカモやオットセイと本質的に同じやり方で、飛翔と睡眠という夢にも両立できそうにない二つの行為を両立させていた。

