1日21時間も起きて活動するオスたち

極地の夏といえば、そう、24時間日の沈まぬ白夜である。それは昼行性のシギにとって、休戦の時間帯がないことを意味する。朝も昼も夜中も変わらず明るいので、気を緩めた途端に縄張りが侵され、ライバルに出し抜かれ、メスを奪われる。そうした過酷な状況が3週間にもわたって続く。まさに体力と精神力の限界に挑むような、究極の求愛合戦。

この時、オスはどのくらい眠るのか。そして睡眠時間の多寡は求愛の成果を左右するのか。疑問に答えを出すため、ヨーロッパの研究チームがアラスカを訪れ、繁殖期のシギに機器を取り付けて1日の活動パターンを調べた。一部には脳波センサーを頭に装着し、睡眠を計測した。

実に夢のある研究である。世界でこれしかないという動物に目標を定め、チームを組んで遠征し、これしかないという計測をしたのだから。

で、何がわかったか。求愛行動に勤しむシギのオスは、1日に21時間以上も起きて活動した。睡眠は数時間だけで、それも数秒間から数分間の短い眠りを細切れにとるだけだった。

繁殖期が終わると、しかし活動時間が一気に減って睡眠時間が増えた。いっぽうメスは、繁殖期か否かにかかわらずたっぷりと眠った。

つまりシギのオスは繁殖期の最中、睡眠時間を削りに削って体力の限界までメスの尻を追いかけ、他のオスと戦うようだ。

なぜそこまでするのか。睡眠を削ることは、私たちヒトにとって苦痛の最たるものである。鳥たちだって辛いはずだ。

睡眠時間の短いオスほど、残した卵の数は多かった

研究チームは次に、繁殖期を通して一羽のオスがメスとつがって残した卵の数と、睡眠時間との関係を調べた。

すると睡眠時間が短く、縄張りの防衛や求愛行動に長い時間を充てたオスほど、つがったメスの数、ひいては残した卵の数が多かった。なんという過酷な現実! 不眠に耐えれば耐えるほど、子孫繁栄の明るい未来が開けるのだ。

渡辺佑基『鳥は飛びながら眠る』(中公新書)
渡辺佑基『鳥は飛びながら眠る』(中公新書)

ヒトでもマウスでも、睡眠時間を極端に削ると、脳を始めとする体の機能が損なわれる。活力が減り、注意力が鈍り、記憶が曖昧になって最悪の場合は死に至る。

しかるにシギのオスは、ろくすっぽ眠れぬ過酷な環境下でも健康体を維持した。ぎりぎり最低限の睡眠をとりながら空を飛び続けるグンカンドリとも似る。理由は不明だが、眠らぬことが子孫繁栄に直結する場合、世代を重ねるうちに自然選択の力がはたらき、遺伝的に不眠への耐性の強い動物が生まれる可能性がある。むろん耐性にも限界はあるのだが。

かえすがえすも面白い研究である。でも私は一人の男として、血走った目でふらふらになりながら夜を日に継いでメスを追いかけるシギのオスを想像してしまう。そして生まれ変わってもアメリカウズラシギにだけはなりたくないと思う。

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