※本稿は、渡辺佑基『鳥は飛びながら眠る』(中公新書)の一部を再編集したものです。
卵を無駄死にさせるペンギン
「産む、育てる」となれば、のっけに私の頭に浮かぶのは直立してひょこひょこと歩く鳥、ペンギンである。せっかく産んだ卵を、あろうことか無駄死にさせる不思議な習性の話。
世界に19種いるペンギンの大方は、繁殖期が来るとメスが2個の卵を産む。大きな卵を1個だけ産むエンペラーペンギンとキングペンギン(体の大きい近縁種)だけが例外である。2個の卵は当然ながら同じ大きさで、孵る2羽の雛にも体軀の差はなく、親鳥の愛を平等に受ける――と思いきや、奇怪な事実がある。
マカロニペンギンやイワトビペンギンを含むマカロニペンギン属、すなわち頭部を彩る黄色の飾り羽と赤い大きなくちばしが特徴の1属8種においては、3〜5日の間隔をあけてメスが産む2個の卵のうち、1個目が顕著に小さくて2個目の6割ほどの目方しかない。鳥の世界広しといえど、1羽のメスの産む複数の卵に明瞭な大小があるのはマカロニペンギン属だけだ。
1個目の卵をメス自ら巣の外に放逐
あまつさえ、これらのペンギンのメスは厳しい自然の中でやっと産んだはずの1個目の卵――ちゃんとした受精卵である――に関心を示さない。温めも守りもしないので、2個目が産み落とされる前に大抵、トウゾクカモメなどの獰猛な海鳥に食べられてしまう。メスが手ずから1個目の卵を「よいしょ」と巣の外に放逐することすらある。鬼か。
そのくせ2個目の大きな卵は愛情深く温め、外敵から守り、雛が孵ると熱心に世話をする。
1個目と2個目の卵に注ぐ愛情が、それぞれゼロと100なのだ。いきおい、立派に育って巣立つ可能性があるのは第2子だけだ。
面妖である。本書の読者ならおわかりの通り、進化生物学では、生物が生物として生きる唯一にして最大の目的を、できるだけ多くの遺伝子を後世に残すことだと考える。ならば受精卵の1個をあえて打ち捨てる行為は、明らかに理屈に反する。
マカロニペンギン属による卵の放逐にはどんな意味があるのか。それが見出せなければ、進化生物学の前提ががらがらと崩れ落ちる。いわばダーウィンから現代の生物学者に向けて、挑戦状が突き付けられているのだ。これまで侃侃諤諤の議論があった。いわく、無駄に見える1個目の卵にも何か隠された役割があるはずだ。いわく、否、これらのペンギンは進化の途上にいるのであり、遠からず無駄を排して卵を1個だけ産むようになるだろう。云々。

