ぎりぎりのラインを「攻め」ている

なるほど、と納得しかけて、いやいや、と首を振りたくなる。それならさっさと回遊を切り上げて上陸し、腰を据えて2個の健康な卵を産むのが道理ではないか。

渡辺佑基『鳥は飛びながら眠る』(中公新書)
渡辺佑基『鳥は飛びながら眠る』(中公新書)

実のところ、それは難しいバランスの問題である。海でしか食べ物にありつけぬペンギン類は、一旦上陸して繁殖の準備に入れば、あとはじっと空腹を忍ぶしかない。できれば海に長く逗留とうりゅうして上陸期間を切り詰めたいのだが、度を過ぎれば体内で育つ卵が虚弱になるという葛藤の中にいる。そのぎりぎりラインを「攻め」て、こと1個目の卵に関してことごとく失敗しているのがマカロニペンギン属なのだ。

ならばせめて失敗を反省し、翌年の戒めにせよと苦言を呈したくなる。けれども、そうした生き方はあらかた遺伝的に決まっているので、個々のペンギンに反省を促しても詮がない。

回遊など夢にも不可能な狭い水槽で暮らし、餌を毎日もらう水族館のマカロニペンギン属でも、1個目の卵が小さいのがその確たる証拠である。

1個目の卵は「失敗の結果」

というわけで、知れ切った往生を遂げるマカロニペンギン属の1個目の卵に、何か隠された役割があるのではない。謎の1個目の卵は、海で腹を満たし陸で産卵する生態と、時間とエネルギーの無駄をぎりぎりまで削ろうとする努力がもたらした失敗の結果なのである。なぜ失敗のパターンが修正されず、遺伝情報に組み込まれて現在まで連綿と続いているのかは未解明の問題だ。もしかしたら、現在の海洋環境では1個目の卵が不首尾に終わるものの、かつては2羽の雛がともに育っていた黄金時代があったのかもしれない。だとすれば今は過渡期であり、いずれ卵を1個だけ産むように進化する可能性も否定できない。

毎年せっせと無駄な卵を産み続けるマカロニペンギン属のメスたち。彼らは野生動物というものが、厳しい自然環境を生き抜くための「最適解」を必ずしも体現しないことを私たちに教えてくれる。

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