日本は諸外国と比較してデジタル化や組織の合理化など生産性向上策が十分に浸透しておらず、その状況で残業規制だけを加えたため、年収が大幅に下がるという現象があちこちで発生している。
本来であれば、残業時間が減ってもそれ以上の生産量を確保できるよう、デジタル化投資を促進する必要があるが、日本の経済界はそうした努力を十分に行うことなく、政府に対して、以前のように長時間残業ができる体制に戻してほしいと要請している。
高市政権はこうした一部経済界からの要請を受け入れる形で、裁量労働制の見直しに舵を切った。多くの業種や業態に裁量労働制がなし崩し的に拡大した場合、残業規制は実質的に意味を成さなくなってしまうだろう。
企業社会の在り方が昭和の時代に逆戻りする
高市氏は施政方針演説においてデジタル化投資の促進や企業のガバナンス改革など、生産性向上策についても触れているが、先に残業規制の緩和を進めてしまうと、企業がリスクの高い構造改革を自ら決断するインセンティブが消滅してしまう。デジタル化のスピードが遅くなれば、本来であれば存続できない低生産性企業が温存され、さらに賃金が低下するという悪循環になりかねない。
ガバナンス改革も、下手をすると配当や自社株買いなど投資家還元策に終わってしまい、その原資を捻出するため従業員の賃金を下げる可能性もある。高市氏は自他共に認める保守政治家とされるが、このままでは、企業社会の在り方を昭和の時代に戻すという意味での保守になってしまう。これでは国民生活の豊かさにはつながらない。
当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら


