米外交専門誌ディプロマットは、コストと融資条件をめぐる対立が相次いで生じたと指摘する。土地の収用が難航し、石油パイプラインの移設問題がのし掛かったところに、新型コロナが重なった。工事は何度も中断し、2024年12月にはタイ国鉄が3区間の契約期間を最大2年延長している。中国は遅れに苛立ちを募らせたが、金を出していない以上、こうした問題に介入する手立てがない。
英字日刊紙バンコク・ポストは、14ある建設契約のなかでも特に2件が深刻だと指摘する。バンスー―ドンムアン間の「契約4-1」は、東部経済回廊の目玉として契約された3空港連絡鉄道プロジェクトの一部として計画された。高速鉄道と3空港鉄道が同じ高架構造や駅施設を共用する設計となっている。
ところが肝心の3空港鉄道が、2019年の契約から7年近く経つ今も、着工されず宙づりの状態だ。契約主体のアジア・エラ・ワン社と国鉄との間で契約の再交渉が進むが、膠着状態にある。
もう一方の問題区間であるバンポー―プラケーオ間の「契約4-5」は、ユネスコ世界遺産アユタヤ歴史公園に近いため設計変更を迫られた。どちらも進捗は0%で、まったく動いていない。
日本の新幹線技術を採用のルートは「進捗0%」
中国が東北ルート(バンコク―ノンカイ)で苦闘する一方、タイにはもう一本、まったく別の高速鉄道構想が存在する。バンコクから北部の古都チェンマイまでの約670km、日本の新幹線技術を導入する北部ルートだ。
2015年5月、日タイ両国は協力覚書(MoC)を締結。日本はJICA(国際協力機構)を通じて事業性調査を実施し、2017年に建設費を最大4200億バーツ(約2兆742億円)と見積もった。日本の国土交通省は同年、バンコク―チェンマイ高速鉄道について全線を専用軌道で整備する方針を確認し、事業性調査報告書を年内にとりまとめると発表している。最高時速300キロの新幹線型車両で12の駅を結ぶ壮大な計画だった。
だが、ここで両国の思惑に致命的な差異が生じた。米外交専門誌ディプロマットは2018年の記事で、タイが日本に共同出資を求めたのに対し、日本側はタイが全額を自己負担し、日本はソフトローン(低利融資)を提供するにとどめると主張したと伝えている。
軍事政権下で財政難に陥っていたタイにとって、日本側の共同出資を引き出すことで債務を圧縮したい算段だった。同じく圧縮の手段としてタイは、最高速度を引き下げる案を検討。建設費を安く抑えたい思惑だった。
だが、これが日本側の不信を招いた。速度引き下げの方向性を知った日本側は、世界最速を誇る新幹線ブランドの毀損を懸念する。2者の方向性のズレが鮮明となった。加えて、タイの不安定な政治情勢も日本の投資意欲を削いだ、とディプロマットは指摘する。
交渉は膠着し、2018年以降、実質的に止まったままとなっている。JICAの調査では、1日あたりの利用者は当初予測の3万人に対しわずか1万人と推計され、採算ラインの5万人には遠く及ばない。2019年にはタイ政府が計画の撤回を検討したと報じられた。

