だが、華々しく報じられた開業の裏で、建設費は予算を超過し、工期は大きく遅延。政府と国民は重い債務に苦しんでいる。米外交専門誌ディプロマットによると、昨年8月に着任したインドネシア国鉄(KAI)の新CEO、ボビー・ラシディン氏は議会で、債務は「時限爆弾のようだ」と警告した。2024年だけでKAIが負担した損失は1億3700万ドル(約217億円)相当にのぼる。
豪シンクタンクのローウィ研究所によると、建設は4年遅れ、12億ドル(約1903億円)もの費用超過を招いた。損益分岐点に達するまで40年かかるとインドネシア当局自身が運行前から認めており、インドネシアは既に中国との間で債務再編交渉に入っている。
日本を蹴った代償
インドネシアの高速鉄道がここまで泥沼にはまった背景として、「日本外し」がある。
ジャカルタ―バンドン高速鉄道の構想は、2014年にJICAがODA計画に組み込んだことで本格的に動き出した。米ウィリアム&メアリー大学の開発研究機関AidDataによると、JICAは事業費の75%を金利わずか0.1%で融資するまたとない好条件を提示していた。
ただし、インドネシア政府による債務保証が前提だ。より良い処遇を求めたインドネシアのジョコ・ウィドド大統領(当時)は2015年初頭、中国にも対案の提出を要請。日中間で入札競争を行わせる形へ誘導した。
日本から案件を奪いたい中国は、切り札を出した。国家財政に一切負担をかけないとする保証だ。AidDataによれば、中国開発銀行が中国・インドネシア双方の国有企業による合弁会社(KCIC)に直接融資するスキームを提案し、政府保証は不要であると明言した。
これにより、インドネシアの公的債務の上限を迂回することができた。日本は保証額の50%削減で応じたが、保証自体が要らない中国案に敗退。ジョコ大統領は中国案を採用し、2015年には国費の投入を禁じる大統領令にも署名した。
だが、中国が約束した「国費負担ゼロ」の前提はあっけなく崩れた。新型コロナにより工期は遅延し、資材価格が高騰。用地取得費も想定を超えるなど問題が山積した。米外交誌フォーリン・ポリシーは2025年の記事で、コストが当初見積もりから約20%膨張したと報じている。
AidDataが伝えるように、ジョコ大統領は2021年に「国費不投入」の大統領令を撤回し、国庫からKCICへの資金注入を承認した。中国を選んだ最大の理由だった財政的メリットが、まるごと消えた形となる。
さらにフォーリン・ポリシーによると、インドネシア側は現在、中国側の貸し手に返済期間の延長や金利引き下げ、ドル建てローンの人民元建てへの転換を求めている。財務省と国有持株会社ダナンタラの間では、KCICの負担を最終的に誰が引き受けるかをめぐる対立も目立つようになった。そもそもこの事業に利益を生む見込みはあったのかと、国内でも疑問が噴出しているという。

