日本のJICAは2000年代からジャカルタの都市鉄道(MRT)整備を支援してきた実績がある。高速鉄道でも日本案を選んでいれば、低利の円借款で建設し、コスト超過のリスクも限定的だったかもしれない。「財政負担なし」という甘い条件に飛びついた結果、インドネシアはいま、安全性で日本に劣る公算の大きい中国式高速鉄道に対し、国費の注入を強いられている。結果として高い買い物になった。
限界を迎えた「どこにも行けない鉄道」
東南アジアにおける中国の高速鉄道外交は、3つの国で3つの失敗を重ねた。
ラオスでは中国が金を出し、5年で線路を敷いた。だがアジア開発銀行は採算性を否定し、巨額の偶発債務を警告する。インドネシアでは中国主導で開業にこぎつけたが、CEO自ら「時限爆弾」と呼び、債務再編を迫られている。そしてタイでは中国の資金を拒み、自力で進めたものの、8年かけた末に半分も完成していない。
金を出しても、出さなくても、結果は変わらない。中国が描いた東南アジア高速鉄道構想に、勝ちパターンは存在しない。
北京交通大学の趙堅教授は英経済紙フィナンシャル・タイムズに、辛辣な見解を示している。「この地域にはまとまった交通需要が存在しませんので、通常の鉄道でさえ赤字になる可能性が高いでしょう」
問題の根底は、中国の交渉術でもタイの政治的混乱でもなく、東南アジアに高速鉄道を走らせるという前提そのものにある。一帯一路の旗艦プロジェクトは、構想段階からすでに誤算があったことになる。
東南アジア広域を結ぶ、夢の高速鉄道計画。だが、タイの膠着ぶりを見た専門家たちは、「どこにも行けない鉄道(train to nowhere)」とまで揶揄するようになった。中国が描く東南アジア高速鉄道構想の限界が露呈しつつある。


