ドトールが1杯150円でも利益を上げられた理由

1970年代、物価高と不況で人々の財布の紐が固くなっていく中で、「出勤前にさっと寄れる、安くておいしいコーヒーショップを作る」というアイデアが生まれます。

そして1980年、原宿にわずか9坪の「ドトールコーヒーショップ」1号店が誕生します。コーヒー1杯、150円。これは、鳥羽が「毎日気軽に飲める価格」を追求して導き出した価格設定でした。徹底した自動化と人件費削減を行い、こだわりの味を守りながら低価格コーヒーの提供を実現し、大ヒットとなりました。

この価格でもビジネスが成り立ったのは、ドトールがもともと焙煎業者であり、「煎りたての豆の販売」をしていたからです。鳥羽の西ドイツ視察の経験がここで活きています。一杯のコーヒーの利益率は低くても、レジ横で販売していた焙煎したての豆は、非常に利益率が高かったのです。

もし大手の焙煎業者が喫茶事業に参入していたら、きっとドトールは蹴散らされていたでしょう。しかし、大手の焙煎業者はすでに他の喫茶店チェーンに豆を卸していたので、喫茶店側からの反発を恐れて参入できませんでした。

つまり、ドトールは焙煎業界ではアウトサイダー、喫茶事業者としても新規参入者であったからこそ、結果的に「焙煎業者が経営する喫茶店」というブルーオーシャンを独占できたのです。

ドトールコーヒーショップの代々木店外観=2024年4月13日、東京都渋谷区
写真=時事通信フォト
ドトールコーヒーショップの代々木店外観=2024年4月13日、東京都渋谷区

ドトールは「必要の趣味」の世界

近年、コーヒー業界にはさまざまな変化が訪れています。サードウェーブ系コーヒー店は、生産方法や鮮度にこだわり、価格がドトールの2〜3倍ということもあります。新たな外資系チェーンも日本に進出してきています。コンビニでも、挽きたての豆で手軽にコーヒーを作れるようになりました。マクドナルドなどのファストフード店も低価格コーヒーの販売を始めました。

こうした中でもドトールは、自分たちなりの「こだわり」と「コストパフォーマンス」を貫き、独自のポジションを築いています。

スターバックスをヒューム的、あるいはブルデューの用語で「贅沢の趣味」と表現しましたが、対するドトールは同じくブルデューの用語の「必要の趣味」の世界といっていいでしょう。安さ、素早い提供、喫煙ブース。これらは、労働者が生命活動を維持し、休息し、再び労働に戻るための生理的な必要を満たしてくれます。

ここではスターバックスと対比されるような「ドトールの体験」の背後に潜む社会の哲学的意味について考えてみましょう。