スタバがCMなしで成功した理由
現在のスターバックスは、2000以上の店舗を展開する日本で最もポピュラーなカフェチェーンの一つですが、テレビでCMを見ることはありません。スターバックスは、大規模な広告宣伝なしで全国展開に成功しました。
その理由はシンプルで、「お店で働いている人たちが、スターバックスの理念と味に本気で惚れ込んでいたから」です。本物の熱量が、ブランドの信頼性をつくり、お客さんが自然とファンになってくれたのです。
スターバックスは、ある1人の青年が「人生を変えるような1杯のコーヒー」と出会い、そこに人間味や情熱、誠実さを注ぎ込んでつくった「体験のブランド」なのです。カフェという空間が、ただの「場所」ではなく心がほどける時間を提供してくれると感じたことがあるなら、シュルツの思いは今も息づいていると言えるでしょう。
スターバックスの「センスの世界」の扉を開けるとき、私たちはイギリスの哲学者デイヴィッド・ヒューム的な世界観、あるいはフランスの社会学者ピエール・ブルデューの用語では「贅沢の趣味」に足を踏み入れています。
哲学者のヒュームは、趣味には「基準」があり、それは経験や感性を磨いた人間によって見出されると説きました。ヒュームは、優れた趣味を持つ人は、微細な違いを察知する能力が高いと考えました。香辛料のわずかな香りの違い、ワインの微妙な味わいを見分ける「感度の鋭さ」は、人間を未開の状態から引き上げ、知的な喜びをもたらすと説いたのです。
スタバが売るのは「自己表現のプロセス」
ヒュームは、幸福には「行動」「休息」「快楽」のバランスが必要だと考えました。洗練された贅沢品(高級なコーヒーや香辛料、芸術)は、この「快楽」を刺激し、産業を活性化させる「社会の潤滑油」であると肯定したのです。
「好みは人それぞれ」と言いつつも、なぜか時代を超えて高く評価される名作や名品が存在します。ヒュームは、偏見がなく、経験豊かで、多くの比較をした「優れた判定者」が認めるものこそが、趣味の基準になると考えました。上流階級が香辛料や芸術に投資したのは、「自分にはその微細な違いを理解できる感性がある」と証明するためでもありました。
スターバックスはコーヒーだけではなく、第三の場所という「物語」や、カスタマイズという「自己表現のプロセス」を売っているのです。そして「ラテにキャラメルソースを追加し、豆をディカフェに変更する」という選択は、フランスのプチブルジョア資本主義が提示した「差異化」の論理につながります。スターバックスに行くことは、単なる消費ではなく、自らの感性(趣味)を確認し、洗練させるという「儀式」なのです。

