日本語は地球を救う

鈴木孝夫氏の『日本の感性が世界を変える』という本の中で、日本語を学んだフランス人が「私が私がを主張しないことは最初は気持ちが悪かったが、全体の中に何となくいることが、ふあ~として心地よい」と感じるようになったという例を紹介していますが、日本語を学ぶと人格が柔らかくなることを「タタミゼ」効果と言うそうです。

松元崇『武器としての日本語思考』(新潮新書)
松元崇『武器としての日本語思考』(新潮新書)

「タタミゼ」とは、フランス語で畳の上での生活を意味する言葉で、国際的にもかなり用いられるようになっているといいます。『英語にも主語はなかった』という本を著しているカナダ在住の言語学者、金谷武洋氏は、そのような日本語は地球を救える力を持っているとしています。

「世間」で自分を認識する日本語を話す日本人にとっての幸せは「世間並」です。周囲の人たちの幸せを喜びと考えてきたのです。「タタミゼ」効果で人格が柔らかくなるというのも、日本語がそのように周囲の人たちの幸せを喜びとする言語空間を創り出す機能を持っているからだと考えられます。

周囲の人たちの幸せを喜びとする人々が集まれば幸せな社会が築かれます。実は、江戸時代の260年間は、そのような「タタミゼ」効果を持つ日本語が創り出した一つの理想郷だったと考えられます。

江戸時代は、長年にわたって戦乱のない太平の世でしたが、遡れば縄文時代は1万年以上にもわたって戦乱のない時代だったことが考古学上明らかにされています。

人類の古代史の研究では、人類の歴史には「万人の万人に対する闘争」だけでなく平等原理を尊重する社会も繰り返し登場してきたとしていますが、日本の縄文時代のように1万年以上にもわたって戦乱のない時代というのは、世界の歴史にはおよそ記録されていないのです。

日本語には人々を幸せにする力がある

そんなにも長きにわたって戦乱がなかった縄文時代のDNAは日本人、そして日本語の中に深く組み込まれているはずです。それが、世界で唯一相対敬語を使うという日本語を生み出し、日本語の「寄り添い機能」をはぐくんできたのです。戦乱がなかった縄文時代のDNAを受け継ぐ日本語には、人々を幸せにする力があるはずです。

そんなことを言うと、それでは日本語をしゃべらないと人は幸せになれないのかと言われそうです。しかしながら、そもそも人間が言葉をしゃべれるようになったのは、他の動物と異なり人間に他者の善意への信頼のようなものがあったからです。

アダム・スミスの道徳感情論は、他者の善意への信頼の思想です。英国人も、そのように考えてきたのです。

だとすれば、日本語以外の言語をしゃべる人々も他者の善意への信頼という言語の原点に立ち戻れば、同じように幸せになれるはずです。日本語は、その原点を最もよく保存している言語に過ぎないのです。

世界では、各国の利害が錯綜し、ウクライナでは戦争が続いています。そのような世界を少しでも平和で幸せなものにしていくために、日本が、日本語の思想で、世界に貢献できることはたくさんあるはずです。

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