「自分の適性にあった仕事」という幻想
メンバーシップ型の雇用は、「主語」を使わない日本語においては変幻自在に立ち現れてくる様々な主体との間に臨機応変な関係を取り結んでいかなければならないという文化の上に成り立っています。このことは、社会に出たばかり、あるいはこれから社会に出ていこうとしている若い人にとって大事な意味を持っています。
最近の若い人は、就職しても3年で3割の人が転職するといいます。それは個人の自由ですが、若い人が単に「この仕事は自分に向いていない」と決めつけてすぐに転職してしまうとすれば考えものです。
自分に向いている仕事など、ある意味で一生かかって探し出していくものです。筆者自身の就職にしても行き当たりばったりでした。もちろん、若いころから学問を志して立派な研究者になる、看護師を志して立派な看護師になるといった人もいるでしょうが、たいていの人は大学卒業時には自分の適性が何かよく分からない。
そこで、とりあえずは良さそうな会社に就職してみるというのが実態でしょう。そういった若者の潜在的な能力を引き出し、やりがいのある仕事を与えて、人も会社も共に成長していくのが、メンバーシップ型の日本の会社なのです。
そして、人はやりがいがある仕事を与えられても、その職場に溶け込めなければ、実力を十分に発揮することは出来ません。職場の仲間とそれなりの人間関係を取り結んで、初めてしっかりとした仕事が出来るのです。
最後に否定系を持ってくる日本語の強み
それなりの関係とは、単なる仲良しということではありません、対立関係になる人がいてもいいのです。そんな相手との関係も、上手にマネジメントしていくノウハウを蓄積しているのが日本語です。
日本語の敬語や最後に否定形を持ってくるといった、一見面倒な構文が功を奏するのです。
筆者が理事長を務める国家公務員共済組合連合会(KKR)では、常勤、非常勤を合わせて毎年3000名余りの新人を採用していますが、本部の入会式で筆者が訓示するのは、「先輩の仕事を見習え」と「同期仲良く」と「打たれ強くなれ」の3点です。
同期仲良くというのは、同期という新たな「世間」で「寄り添い機能」が生まれてくれば、個人は安心してその力を発揮できるようになるからです。
打たれ強くなれというのは、「寄り添い機能」が失われた世間で仕事をしていく上で、いたずらに傷つかないように、そのためにネガティブ・ケイパビリティを身に着けるようにということです。
KKRは全国で32の病院と30の宿泊施設を運営していますが、患者や顧客の中にはモンスター・ペイシェントやモンスター・カスタマーもいます。
そういった相手に直面した場合にもめげないように、ということです。そのようにして、一日も早く連合会を力強く担う職員に育っていってほしいという願いからの訓示です。

