腸内細菌が変われば性格も変わる

こうした研究は「腸内細菌が糖質を欲しているからこそ、宿主にそれを食べさせるよう仕向けている」とも解釈できます。実際、動物実験でも腸内細菌が行動を変える例が数多く報告されています。

例えば無菌マウスに「不安傾向のあるマウス」の糞便を移植すると臆病な行動を示し、逆に通常のマウスの糞便を移すと探究的な行動をとるようになることが知られていますAnnu Rev Neurosci. 2017 28301775。これは糖嗜好を直接測った研究ではありませんが、腸内細菌が行動を改変しうる生物学的な土台を示すものです。

ヒトでも、腸内環境を意図的に変える介入が気分やストレスを改善しうることが示されています。乳酸菌やビフィズス菌の組み合わせたものを摂取してもらうことで、不安やストレスに関連する行動がなくなりましたBr J Nutr. 2011 20974015。これらは腸内細菌の改変が、最終的に意思決定(=何を選んで食べるか)にも波及しうる」ことを、ヒトで示したものです。

ここまでをつなげると、甘い物を強く欲する人とそうでもない人の差は、脳や意志だけじゃなく、腸に棲む細菌が欲望のシナリオに書き込みをしているから、という答えに近づきます。腸内細菌は小さな傀儡師かいらいしのように、宿主である私たちの食行動を、ほんの少し自分たちに有利な方向(=糖質)へ傾けることがあるのかもしれません。やめられない自分を責める前に、腸内環境を整えるという手当てが、甘い物を求める渇望やつい夜間に食べてしまう食行動を控える近道になり得ます。

チョコレートケーキを食べている若い女性
写真=iStock.com/pain au chocolat
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腸内環境を整えるためには…

腸は、体内でも最も注意が必要な場所の1つです。外部から摂取する食事から栄養成分を取り込む際、有害な物質や細菌、さらにはその毒素などが体内に流入するリスクを常に抱えているからです。そのため、腸管内には体内の免疫組織の大部分が配置され、絶えず監視体制が敷かれています。

しかし、腸壁の厚さはわずか細胞1個分にすぎません。腸の細胞同士は強固に密着し、隙間なく腸管バリアを形成していますが、その総表面積はテニスコート一面分にも及ぶと言われています。この広大な面積の防御を免疫細胞だけで完全に担うことは不可能です。そこで不可欠となるのが腸内細菌の協力であり、腸内細菌との共同作業によって、細胞1個分の薄い腸壁が24時間体制で守られているのです。