5人に1人が悩む管理職への移行

課長までと部長・本部長以上の役職とでは、求められる役割が大きく異なります。私としては、「管理職」とは、それだけで個別の職種と捉えるべきものだと考えています。それまでの会社人生で得てきたことは、成功体験も含めて、いったんすべてを忘れてほしいぐらい――課長が部長・本部長以上のポジションに就くときには、それほど劇的な変化があると考えています。課長時代までの業務と違って、それまでの経験の延長でこなせることではありません。これはもはや、明確な職種転換です。課長と部長・本部長の間にあるのはゆるやかな坂道などではなく、断崖絶壁であるという認識が必要です。

英語の「トランジション(transition)」は「移行」や「転換」を意味する言葉で、ビジネス用語では昇格や転職など、キャリア形成における過渡期を指します。とくにマネジメントへの移行期には、本人の意識改革をはじめとする丁寧なレクチャーがあるのが理想です。しかし、多くの日本企業ではそうしたプロセスがないため、当人もどうしていいのかわからず、苦しんだ末に「大課長」となってしまうことがあります。リクルートマネジメント・ソリューションズが『トランジション・デザインブック2.0』で行った調査では、新たに管理職になった人のうち、5人に1人がトランジションに悩んだ(新しい環境への適応がうまくいかなかった)という結果も出ています(図表1)。

【図表1】マネジメントへの適応状況
出典=『上司はリスクばかりを指摘する』

過去の信念も価値観も捨てて

過去の仕事の信念や価値観を意図的に捨てて学び直すことは「アンラーニング(学習棄却)」と呼ばれます。時代の変化や状況に合わなくなった業界や職種などに対して使われることが多いですが、この概念を、課長から部長に役割が変わる際に用いる必要があると思います。

例えば現場で業務をバリバリ推進していた人が、同じ現場を取りまとめるリーダーとして課長職を担う場合は、アンラーニングまでの切り替えは必要ありません。現場への理解度の高さを活かし、メンバーをまとめながらの業務推進、OJT(On the Job Training)による人材育成などを担っていく役割であり、同じカテゴリ内の業務レベルアップと捉えることができるからです。

一方で、課長から部長に役割が変わるときにはアンラーニングが必要になると考えています。課長のときには、現場で起こる問題の一つひとつに、ハンズオンで対応してきたはず。しかし部長になれば、現場で起こる問題の根本的な原因は何か、ということを考える必要が出てきます。業務プロセスの問題なのか、人材育成の遅れのせいか、はたまた顧客の要望が変化しているのか。さまざまな可能性を検討し、同じ問題が起こらないように対策を打つことが、部長に求められる役割です。