6月に着工しても、全体開業はどれだけ早くても2037年
極めつきは、昨年10月29日、品川―名古屋間の総工費が当初の5.5兆円の2倍となる11兆円に膨れ上がる見通しを発表したことである。
この中で、山岳トンネルなどの難工事への対応として1兆2000億円を追加計上した。JR東海は「トンネルの強靭化のために山岳トンネルの拡幅を行う」と説明している。静岡工区を含め、当初の想定を上回るもろい地山の掘削にさらに費用が掛かることになり、いかに南アルプストンネルの掘削が簡単ではないことが改めて確認された。
また、JR東海は工事費4兆円の負担増に対する新たな借り入れ約2.4兆円の数字を算出するために、「2035年」という開業時期を示した。この「2035年」は単なる仮置きだと強調した。
山梨、長野工区と同様に、静岡工区の工事は10年以上掛かると見られ、実際の開業が「2035年以降」になることは間違いない。つまり、静岡工区が2026年6月までに着工し、何の問題も発生せず10年間で工事完了しても、リニア開業は2037年が最短となる。
難工事となった南アルプストンネル山梨工区、長野工区での大幅な遅れを見れば、静岡工区の工事は「15年以上」かかる恐れさえある。
つまり、たとえ2017年11月に静岡工区の着工ができていたとしても、「2027年開業」など当初からムリだったわけだ。「2027年開業」を断念したのは、JR東海があまりにも甘い見通しで計画を立てたことに大きな原因があり、静岡工区の工事ができなかったのは、その結果でしかなかった。
それなのに、「静岡県の反対がリニア開業を遅らせた」ことだけをJR東海が強調したことで、流域住民らの強い反発につながってしまった。
リニア開業の正念場はむしろこれから
当初、JR東海と大井川流域の住民の間には信頼関係は全くなかった。いまではJR東海は住民の理解を深める場を持ち、不安の解消に努めようと必死である。
6月の着工を前にした住民説明会では、静岡工区の着手が遅れた本当の理由について、JR東海は丁寧に説明すべきである。流域の理解を求める対応をきちんと取らなかったために大井川の水環境問題がこじれたことを経験しているJR東海は、いまや流域の説明会の重要性を十二分に承知していよう。
そもそも流域住民の理解と同意が得られなければ、静岡県は静岡工区の着手を許可しない方針である。
何度も繰り返すが、静岡工区は糸魚川静岡構造線、中央構造線が通る「世界最大級の断層地帯」にある。南アルプス山岳地帯は破砕された脆弱な地層が多く分布しており、実際に掘ってみなければ大量の突発湧水など何が起きるのかわからない不確実性が高い地域である。そんな地域だからこそ1日でも早く、着工すべきであることは間違いない。
2024年5月に川勝前知事が退場してから2年を経て、静岡工区が着工される。これからリニア開業に向けてのトンネル工事の正念場がようやく始まる。


