静岡県とJR東海の「ボタンの掛け違い」

南アルプスのトンネル工事で、大井川の水が毎秒2トン減少することで静岡県の水環境に大きな影響が出ることは最初からわかっていた。それに対して、JR東海は毎秒1.3トンを導水路トンネルの設置で回復し、残りの0.7トンは必要に応じてポンプアップで導水路トンネルに戻す方策を示し、大井川の中下流域への影響はないとする立場を強調した。

この方策しか示さなかったことで、川勝前知事は2017年10月10日の会見で、「あたかも水は一部戻してやるから、ともかく工事をさせろという態度に、私の堪忍袋の緒が切れました」とJR東海への不満を爆発させてしまった。

川勝前知事はJR東海の対応に「明確な抗議」を行い、「湧水全量戻し」を前提に、「(問題解決には)誠意を示すことが大事」と強調し、リニア駅も作られない静岡県に「何らかの見返り」を暗に求めた。

南アルプストンネルは大井川直下約400mを通過する
筆者撮影
南アルプストンネルは大井川直下約400mを通過する

ところが、知事の「誠意を示すこと」発言にJR東海は何らの対応を示すこともなく、大井川流域の住民へ説明会を開催することもなかった。

当初、川勝前知事はリニア工事の着工に反対したわけではなく、JR東海に「全量戻し」を求めていただけに過ぎない。それなのにJR東海は全く反応しなかった。

いま振り返れば、これ以外にもさまざまなボタンの掛け違いがあり、静岡工区の着工は遅れに遅れたのだろう。

2027年開業は夢のまた夢だった

JR東海は「国家プロジェクト」に位置づけされるリニア計画を静岡県がそのまま認めてもらえるものと思い込んでいた。

だから、2017年11月に建設企業体と静岡工区の工事契約を結び、2026年11月末に工事完了というぎりぎりの予定を組んだ。

川勝前知事が不満を爆発させたのは工事契約の1カ月前という段階であり、これでは2027年開業に間に合わなくなるのは目に見えていた。

それなのに、当時は「9年弱」の工期で完了すると考えていた。

それがいかに甘い見通しだったのかはっきりとしたのは、2027年開業をにらんで、2026年11月に工事完了とされた山梨、長野の南アルプストンネル工区で大幅な遅れが生じているのが明らかになったときだった。その他、29カ所の工区でも工事が遅れていることをJR東海が認めた。

現在では、山梨、長野の南アルプストンネル工区とも5年遅れの2031年11月に工事完了を見込んでいるが、難工事が続き、さらに遅れる可能性も否定できない。つまり、静岡工区の問題を除いても、2027年開業などできるはずもなかったのだ。