川勝知事の「全量戻し」から苦節12年

何とも長い道のりだった。

川勝平太前知事時代の2014年3月に、環境影響評価書の知事意見で、工事後の湧水全量戻しをJR東海に求めたことをきっかけに、地質構造・水資源と生物多様性の2つの県専門部会が設置され、県とJRの対話が始まった。

川勝前知事は、工事中、工事後に流出する湧水の「全量戻し」を強く求めていた。

2019年、JR東海の説明を受ける川勝前知事
筆者撮影
2019年、JR東海の説明を受ける川勝前知事

これに対して、JR東海は2018年10月、毎秒2トンの県外流出については導水路を設置、ポンプアップすることで「全量戻し」を表明した。だが川勝前知事は、山梨、長野の県境付近の工事中の県外流出について、水一滴の県外流出も許可しないと強い姿勢で臨んだ。

県境付近を山梨県側から掘削することで、工事期間中の約10カ月間に最大500万トンの湧水が山梨県側へ流出するとJR東海が試算したため、この対応策を示すよう求められた。

2021年になって、JR東海は東京電力リニューアブルパワー(RP)の協力を得て、山梨県側への流出量と同量を大井川の田代ダムで取水抑制を行ってもらい、大井川の流量を確保すると表明した。

県専門部会は、田代ダムで取水抑制できない状態が続いた場合の対応、渇水期を避けた施工の対応などの説明を求め続けた。ようやく田代ダム取水抑制案についてJR東海の説明を了承したことで、水資源確保に関する議論にメドがついた。

川勝前知事の反発は「静岡悪者論」にまで発展

ただすでに、2015年12月に山梨県、2016年11月に長野県の南アルプストンネル工区で、2027年開業を目指して工事が始まっていた。

そんな中で、JR東海は「静岡工区工事の着手ができていない」ことを理由に、品川―名古屋間の「2027年開業」を断念、開業は「2027年以降」と発表した。

2027年開業延期の発表を受けて、SNSなどで「静岡県がごねている」「静岡県のせいでリニア開業が大幅に遅れる」などの批判が噴出、リニア早期開業を望む人たちを中心に「静岡悪者論」にまで発展した。

実際には、静岡工区の着工が遅れたのは、JR東海と静岡県とのボタンの掛け違いが大きかった。川勝前知事は「突然、土足で踏み込んできて、『トンネル掘るぞ』と来た感じ」と当時の状況を表現した。