「イクメン」を目指す新婚男性だったが…
「育てる男が、家族を変える。社会が動く。」――をキャッチフレーズに、厚生労働省が父親の育児参加を促す広報事業「イクメンプロジェクト(*1)」を発足させた2010年。
ある自治体が主催した幼児のいる男性を対象にした「父親講座」で出会ったのが、中小のSIer(エスアイヤー。システム開発を請け負うIT企業)でシステムエンジニア(SE)を務める当時30歳の河本昌平さん(仮名)だった。河本さんは新婚1年目の既婚者だが、まだ父親にはなっておらず、強く参加を希望して特別に許可されたのだという。父親になることへの関心の高さがうかがえた。
「『イクメン』は流行語みたいになっていますけれど……実際には男性が育児を行うことは、長時間労働とか今の職場環境では難しいですよね。ましてや育休を男性が取得するなんて、非現実的です。で、でも……僕は、職場の『常識』を覆したい。子どもができたら必ず育休も取って、積極的に子育てをしたいと考えているんです」
話している途中で気持ちが昂ってきたようで、頬に赤みが差し、語気が強まる。河本さんの子育てに懸ける熱意を強く感じ取ったことを、当時の取材ノートに彼の表情や口調、様子とともに詳しく記している。2歳年上の妻は大手メーカーで総合職として働き、管理職を目指しているという。
(*1) 厚生労働省は2025年7月、「イクメンプロジェクト」を終了し、新たな官民連携事業「共育(トモイク)プロジェクト」を開始すると発表した。男女の公平な家事・育児の分担や長時間労働の見直しに向けた啓発活動などに取り組むという。
「仕事と育児の両立」への不安
当時はまだ男性の育休取得率が1.38%(10年度の厚生労働省「雇用均等基本調査」)で、女性活躍推進法が全面施行される6年も前のこと。河本さん夫妻は時代の先端を進んでいたともいえるが、それだけに今よりも困難が伴ったことは想像に難くない。
一方で、河本さんは自身の仕事と育児の両立、そして父親としての不安も打ち明けた。「僕も妻と同様に、職場で指導的役割を担っていきたいと考えているので、仕事と子育ての両立が差し迫った大きな課題ですね。それと、子どもには、頑張って働いているお父さんも、自分とよく遊んでくれるお父さんも、両方の姿を肌で感じてもらいたい。
でも……そのー、わが子とうまくやっていけるのかと……。僕の父親は仕事人間で、幼い頃、キャッチボールとかして遊んでもらった記憶がないんです。それに……やっぱり、子どもはお母さんになつくのかな、なんていろいろと考えてしまって……。
それで、まだお父さんにもなっていないのに、無理言って『父親講座』に参加させてもらったんです」
職場での問題点は明確に認識している反面、父親としての戸惑いや悩みについては、うまく頭が整理できていないようだった。

