フリーのSEになり待望の第一子が生まれる
2012年、河本さんは32歳で男児の父親となった。
妻が半年の育休から職場復帰した直後から、当時男性としては彼の勤務する会社に限らず珍しかった育休を3カ月取得し、「日に日に成長していく息子の姿に驚かされることばかりです」と子育てのやりがいを語っていた。
だが、育休から仕事に復帰して半年ほどが過ぎたあたりから、面会取材で仕事に話を振ると言葉を濁すことが増え、さらに3カ月が経過するとインタビューを申し込んでも断られることが続いた。
そうして15年、2年ぶりに実現した取材で、35歳になった河本さんが当初の考えとは異なる働き方、そして父親になろうとしていることを知る。彼は14年に会社を退職し、フリーランスのSEとして働いていた。取材場所は、都心から電車で1時間ほどの閑静な住宅街にある戸建ての自宅。
インタビューを始める前に見せてくれた3歳数カ月の長男の6畳の部屋には、絵本や英会話の本がずらりと並んだ書棚のほか、自分の部屋から移動させてきたというハイレゾ(CDよりも高いレゾリューション=解像度)のオーディオ機器が設置されていた。
違和感を覚えた「不自然な英才教育」
筆者がそれを見て取るのとほぼ同時に、河本さんが話し始めた。
「びっくりされたでしょう。でも、英才教育としてはごく普通の子ども部屋なんですよ」
「英才教育、ですか?」
「ええ、3歳になる2、3カ月前から始めたんです。一緒にクラシック音楽を聴いたり、絵本を読み聞かせたり……。そろそろ英会話のリスニングも始めようかと思っているんです。もちろん、今の段階で息子が知識や教養を身につけることを目的にしているんじゃないですよ。親子が共に楽しみながら、自然と言葉や音楽に慣れ親しみ、感性豊かに育ってほしいなと……。もう1年もしたら、次のステップです」
「次のステップとは、何をなさるんですか?」
「お受験、つまり難関私立大学までエスカレーター式で進学できる私立小学校を受験させたいので、その塾通いを始めます。妻は中学からエスカレーター式の有名私立大卒ですが、僕は高校まで公立で大学受験には苦労して結局は三流止まりですから……。息子の未来にいろんな可能性を与えてやりたいんですよ」
父親としての思いは貴い。ただ、無邪気な息子とは対照的に、時折見せる張り付いたような笑顔や視線が泳ぐ落ち着きのない様子、さらに仕事に関する質問の答えをはぐらかすなど、いくつもの不自然な応答に違和感を覚えたのも事実だった。

