差別化がとても難しい味噌ラーメン
味噌ラーメンは札幌を中心に全国的な知名度を誇り、寒冷地では「身体を温める一杯」として日常的に親しまれている。しかし、東京をはじめとする首都圏で「味噌ラーメン専門店」が次々と人気を博していくかといえば、実態はそうではない。
むしろ、味噌を看板に掲げる店は増えにくく、成功例も限られている。なぜ味噌ラーメンは広く支持されながらも、新しい展開が難しいのか、その背景を整理してみたい。
味噌ラーメンの需要は、地方、とりわけ寒冷地やロードサイド店舗で顕著だという。ラーメンを食べたい理由のひとつに「身体を温めたい」という欲求があり、そこに最も直結するのが味噌だからだ。
香りが強く、コクも深く、身体に沁みる感覚がある。うどんにおける味噌煮込みと同じように、日本人の食文化に根差した“温めの象徴”が味噌なのだ。
ところが、この強さが同時に難しさを生む。味噌は発酵食品で調味料としての完成度が高く、単体で十分に味が成立してしまう。
そのため、どんなスープも味噌の存在感にマスキングされてしまい、せっかくのダシの深みや繊細なバランスが表に出にくい。言い換えれば、作りやすい反面、差別化がしにくいのである。
顧客の求めるものは“味噌の濃さ”という壁
実際、都内の味噌ラーメンの人気店を見ても、製法は大きく二つに限られる。札幌式の中華鍋で香ばしさを出す煽り製法の“純すみ系”(「純連」「すみれ」系)のタイプか、「ど・みそ」に代表されるどんぶりの中で味噌ダレを溶く東京スタイルか。どちらも確立されすぎており、新しい店が登場しても「この系統だね」とすぐに分類されてしまう。
現状では、スープにこだわり抜いた味噌ラーメンはむしろ少数派だ。札幌でも観光地化の影響で、スープを薄めに仕立てて味噌の強さに頼る店が多い。結果として「スープに力を入れても伝わりにくい」「顧客の求めるものは結局“味噌の濃さ”」という壁にぶつかる。
実際、渋谷ストリームにある「伊蔵八味噌らーめん」はスープに徹底的に力を注ぐ挑戦例だが、店主の小宮一哲さん自身「お客様のニーズから外れているかもしれない」と語っている。
さらに、札幌系の煽り製法においては、熟練の技が必要だ。2019年、東京・江戸川橋でオープンした「三ん寅」の店主・菅原章之さんは名店「すみれ」で18年修行した人物。中華鍋で味噌とスープを焼きながら作るが、焼きすぎたり火を入れすぎたりすると、香りが飛んでエグミが出る。
逆に焼きが甘いと香りやコク、ビター感が出ず、しょっぱさが際立ってしまう。加減を数字で測ることはできず、五感をフルに使い、おたまから手に伝わる感触で判断して仕上げているという。
この絶妙な加減は熟練の技の成すものである。その難しさから、「味噌はメインストリームでなくてもいいんです。ラーメンの人気があがっていくとともに、本格的な味噌ラーメンにはレア感が出てきますから」と語っているほどだ。

