ラーメンの魅力を引き立てる具材は何か。ラーメンライターの井手隊長さんは「一瞬で視覚的に『懐かしさ』『安心感』『昔ながら』といった文脈を呼び起こすひとつの象徴としての力を持つ具材がある」という――。
※本稿は、井手隊長『ラーメンビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
味玉は店主の個性を映す鏡
味玉は、ラーメンのトッピングにおいては極めて特異な存在である。味玉は「卵」という普遍的で安価な素材を出発点としながら、店主の個性を映し出す鏡のような存在だ。「つけめんTETSU」創業者の小宮一哲さんは「チャーシューよりも味玉の方が店主の顔が見える」と語る。
もともとラーメンの標準形に必ずしも含まれていたわけではなく、多くの店で「有料トッピング」として用意されるに過ぎなかった。
しかし近年では、味玉ラーメンや味玉つけ麺が当然のように人気商品として並ぶほど、その存在感を拡大している。実際、チャーシューよりも注文率が高く、いちばん人気のトッピングとして扱われている店も多いと聞く。
その背景には、調理の幅広さがある。半熟か固茹でか、醤油か塩か、それとも独自の漬け込み液か。卵というシンプルな素材に対し、調理の温度・時間・漬け込み方のわずかな差異が、仕上がりに変化を与える。
しかも、卵は水温や茹でる数によっても仕上がりが左右されやすく、安定的に半熟卵を仕上げるには経験と細心の管理が不可欠だ。味玉は、店主の探究心や精密な技術が問われる「小さな芸術作品」だといえよう。
さらに、経営の観点からも味玉は独特の立ち位置を占める。チャーシューのように原価が重くのしかかることはなく、1個100円から150円程度で提供可能な、店にとってもお客さんにとっても「ちょうどいい」トッピングである。

