極めて情報量が少ないのに信頼される存在

原価が安いのでトッピングの「コスパの王様」と言われてきたその一方で、近年では鳥インフルエンザや市場の変動によって価格が急騰することがあり、経営者は値付けに頭を悩ませる。

私が常々思っているのは、味玉の「情報の少なさ」である。チャーシューであれば、そのビジュアルや肉質からある程度の味が想像できるが、卵は白身に覆われ、断面を見せるまで個性が見えにくい。

写真から品質を判断することは難しく、実際に食べてみるまでその店の「味玉の哲学」は見えてこない。にもかかわらず、お客さんはラーメン店の味玉を信頼し、進んで注文する。

この点に、味玉が持つ「謎の人気」の根源があるといえる。

味玉
写真=iStock.com/SUNGMIN
※写真はイメージです

ラーメンに半熟煮卵をはじめてトッピングしたのは東京・葛西にある「ちばき屋」だ。和食の料理人を長く務めた店主の千葉憲二さんは、ラーメンにのせる卵に悩んでいた。当時ラーメンに乗っていたのはゆで卵、もしくは味玉でも固茹でのものばかりだった。

だが、黄身がボロっと崩れてスープが濁るのが嫌だと黄身を羊羹状にし、程よい塩梅の醤油とダシに一晩漬け込んだ。

当時味玉にこんなにも手間をかける店はどこにもなかった。その後、「ちばき屋」は“半熟煮卵の元祖”として脚光を浴び、雑誌にレシピを全公開したこともあった。ここからラーメン店の味玉といえば半熟卵がスタンダードになっていった。

総じて、味玉は具材としては素朴でありながら、調理の難しさ、経営上の計算が複雑に絡み合った不思議なトッピングである。見た目で差異が見えにくい中でも勝ち得た「謎の人気」は、顧客がそれぞれの味玉に店主の哲学を感じたからに他ならない。

ナルトが担う記号性

ラーメンのトッピングとしての「ナルト」は、味覚的な価値よりもむしろ視覚的な役割に重きがおかれている。チャーシューや味玉のように食べ応えや旨味の補強を目的とした存在とは異なり、ナルトが担うのは一種の「記号性」である。

器の中に白とピンクの渦巻きが添えられているだけで、人は無意識に「昔ながらの中華そば」を想起する。味や栄養価とは無関係に、ひとつの象徴としての力を持っているのだ。

この記号性は、現代においてむしろ強まりつつある。SNSで写真が拡散される時代において、ナルトはアイコン的な効果を発揮する。醤油ラーメンにナルトが浮かんでいれば、一瞬で視覚的に「懐かしさ」「安心感」「昔ながら」といった文脈を呼び起こす。

だからこそ、塩や味噌といったカテゴリーのラーメンにはあまり用いられず、あくまで「中華そば」を印象づけるための限定的な演出として機能するのである。

興味深いのは、それが極めて低コストで実現できるという点だ。一本120~150円程度で仕入れられるナルトを薄く切れば一枚あたり3〜4円。このわずかなコストで、お客さんに対する印象を劇的に変えられる。

小宮一哲さんは「投資対効果として考えても、これほど効率のいいトッピングは少ない」と断言する。