閉店後に訪れた妻・文子さんとの出会い
独立後の日々は慌ただしく過ぎ、結婚はおろか、恋人を作る余裕すらなかった。
そんなある開業2年目の冬。土曜日の閉店後、母の知人が女性を連れてきた。
「もう終わりなんですけど……」
帰ってもらおうとしたが、「お母さんの紹介で」と言われ、片付けの手を止めてラーメンを出した。その女性が後に妻となる文子さんだった。
食事を重ねるうちに距離は縮まり、交際が始まった。喋っているととにかく自分とリズムの合う文子さんに「この人しかいない」と確信し、2018年に結婚した。文子さんは当時を振り返る。
「はじめは夫と夫の両親のサポートとしてお店を手伝っていたので、“ラーメン屋の女将”になる覚悟のようなものはなかったです。不安もなく、ただ自分にできることを精一杯やるだけというのは昔も今も変わらないですね」
特別な決意よりも、目の前のことを丁寧に。その積み重ねが、いつしか店を支える柱になっていた。
文子さんは元バリスタ。接客、洗い場、やがて調理補助まで担う。
「妻はタイマーが鳴る前に麺が茹で上がるのがわかるんですよ」
コロナ禍に減らした席数はそのまま、お客のゆとりを優先
茹で時間が3通りある麺を操る現場で、阿吽の呼吸が生まれる。
もともと、一般的なラーメン店より席の間隔は余裕を持って設計していたが、コロナ禍に8席から6席に減らし、ゆとりを優先した。コロナが明けても席は6席のままにした。これは2人で話し合って決めた。席を減らしても回転がそれほど変わらなかったこともあり、それならお客さんにゆったり座ってもらったほうがいいという判断だった。
「自分の作ったラーメンを並んででも食べたいと思ってもらえたことへの嬉しさや、感謝の気持ちを持っていれば、お客様を大事にするのは当然のことだと思っています。過度な接客はできませんが、お客様一人ひとりと向き合うことを心掛けています。特にリピートしてくださる方は、並んでも“また”食べたいと思っていただけたということ。こんなに嬉しいことはありません」
