契約書の文言一つで約600万円の差がつく
「買主解体OK」のルールを使うには、売買契約書に解体に関する条項を正しく盛り込む必要があります。ここが最も注意すべきポイントです。
まず、売買契約書において「買主が譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに、当該家屋の全部の取り壊しまたは除却を行う」旨を明記しなくてはならず、口頭の約束では認められません。
次に、実際に買主がその期限までに解体を完了させることも必須条件です。契約書に書いてあっても、実行されなければ特例は適用されません。つまり、売主がきちんと契約書を作っていたとしても、買主の行動によって自分の節税が左右されるリスクがあるわけです。
さらに注意すべきは、「引き渡し日」と「契約日」の区別です。空き家特例の期限は「譲渡の日」が基準であり、一般的にはそれは「引き渡し日」を指します。契約日が期限内でも、引き渡しが期限を過ぎてしまえば特例は使えなくなります。
実家を4000万円で売却するケース(都心郊外であれば、この程度の価格での売却可能性は高い)で、この差がどう出るか見てみましょう。概算取得費(※)200万円、仲介手数料等の譲渡費用150万円とすると、譲渡所得は3650万円です。
(※)両親が住んでいた実家のもともとの購入時の書類がなく「取得費」が不明な場合、売却代金の5%を「概算取得費」として計算。
空き家特例を適用できれば、特別控除の3000万円を差し引いて課税譲渡所得は650万円。税額は約132万円で済みます。しかし、契約書の記載が不十分で特例が使えなかった場合、3650万円にそのまま前述した所得税・住民税の計20.315%がかかり、税額は約742万円。些細な書類不備のせいで、その差は実に約610万円にもなるのです。
3000万円控除後:同650万円vs同3650万円(控除なし)
税額(20.315%):同約132万円vs同約742万円
差額:約610万円の損失!
契約書の文言一つでこれだけの差が生まれるため、「買主が解体する」方式を採用する場合は、不動産仲介会社に依頼する際に「空き家特例の適用を前提とした売却である」ことをはっきり伝えておき、解体完了の期限を買主に遵守させることも強調したいところです。また、その際は、税理士と不動産会社の両方に相談し、契約書のドラフト段階で税理士にレビューしてもらうのがベストです。その分、コストはかかりますが、トータルのお得感を考えればやらない手はありません。
「先に解体」か「買主解体」どちらを選ぶべきか
以前、多かった「先に解体して更地で売る」場合、売主自身が状況をコントロールできるため、特例適用の確実性は高くなります。ただし、木造30坪程度の家屋で100万〜200万円程度の解体費用を先払いする必要がありますし、前述のとおり更地になると住宅用地の特例が外れて固定資産税が跳ね上がるリスクもあります。
一方、「買主が解体する」方式なら、解体費用の持ち出しはありませんし、建物が残っている間は固定資産税の急増もありません。ただし、繰り返しになりますが、契約書の文言が不備だったり、買主が期限内に解体しなかったりすると、特例を使えなくなるリスクを背負うことになります。
どちらを選ぶかは、手元の資金余力や物件の立地によってケースバイケースですが、いずれにせよ「空き家特例の適用を意識した売却戦略を立てる」ことが大前提である点は共通です。
