叱責するのではなく“検証”する
これは叱責ではなく“検証”です。曖昧なまま想像する代わりに、小さく観察し、小さく試すこと。これが、根拠がない推論を防ぐ最も現実的な方法です。
実際に中間チェックをしてみると、エンドウさんの資料は想像よりもずっと進んでいました。彼は見出し構成を整理しており、図表の下準備も整っていました。
「まだ整理中」と言ったのは、「構成の精度を上げている途中」だったのです。上司は反省しました。勝手に“遅れている物語”を作り上げ、それを真実のように信じていたのですから。それこそが、根拠がない推論の典型例でした。
この場合、上司から「どこが一番時間がかかりそう?」と分解して聞くことのほうが、ずっと建設的です。タスクを要素に分ければ、部下も「ここまではできています」「ここは手伝ってほしい」と言いやすくなります。
それによって、実際のボトルネックが見え、フォローできるでしょう。この「分解の対話」を重ねると、エンドウさんも自分の作業見積もりを現実的に組み立てられるようになりました。
「決めつけない勇気」を持つのが真のリーダー
そして上司も「過去の印象に頼らず、今の状況を見る」練習を続けることができたのです。根拠がない推論を手放す3つの習慣として、まとめると次のようになります。
1.気づく習慣
「私は今、証拠のない推論をしていないか?」と心の中で問いかける。感情が先に動いているときほど、立ち止まる。
2.確認する習慣
曖昧な状態のまま想像を膨らませず、小さく確認する。たとえば「今、どの段階まで進みました?」と具体的に尋ねる。
3.現在を見る習慣
「前回はこうだった」ではなく、「今回どうか」に焦点を当てる。過去は参照例にはなるが、証拠ではない。
上司という立場では、判断の速さもさることながら、判断の確かさが問われます。そのためには、思い込みを手放し、「決めつけない勇気」を持つことが必要です。結論を急がず、検証を速める――。この姿勢こそが、エンドウさんのような部下を信頼で動かし、チームの成長を支えるリーダーシップの基盤なのです。


