上司に注意されて凹む人の脳内
認知行動療法は、日本では2010年から医療機関において診療報酬点数化されました。現在ではうつ病以外にも不安障害や統合失調症、ギャンブル依存、発達障害、性犯罪や薬物使用の問題改善などにも効果があることがわかり、医療だけでなく福祉、教育、産業、司法矯正分野でも用いられています。
認知行動療法では、考え方が感情に影響を及ぼすということを基礎として、人を理解していきます。この基礎を「認知モデル」と言います。それまで私たちは、出来事が直接自分の感情や行動に影響を与えると考えていました。たとえば「あんなに上司に注意されたのだから、落ち込んで当然だ」という図式は、広く世間で認められているでしょう。
しかし、それに異を唱えるのが認知モデルなのです。認知モデルでは、次ページのように「考え方」が出来事と感情を媒介すると仮定します。たとえば上司に注意されたときに「自分は何をやってもダメだ」と考えるから、落ち込むのです。
このとき仮に「問題点がわかってよかった」と考えれば、「自分であれこれ問題点を探して、改善までに時間がかかるよりも近道だ」などとも考えられて、やる気が起こるかもしれません。つまり、考え方次第で、抱く感情が大きく異なるということです。
【出来事】上司に注意された → 【考え方】自分は何をやってもダメだ → 【感情】落ち込む
【出来事】上司に注意された → 【考え方】問題点がわかってよかった → 【感情】やる気
考え方のクセを見直す前にすべきこと
この例に限らず、プレゼンの後に上司から「声がよく通っていた」と言われた場合の、3人の例も認知モデルで説明できますね。この「考え方」に気づいて、調整することで、少しでも辛い感情を和らげたり、抱えている問題を解決するのを目指すというのが認知行動療法です。
しかし、考え方のクセを見直すにはちょっとしたコツが必要です。自分にどのような考え方のクセがあるのかを自覚していなければ、なかなか気づけないのです。というのも、考え方は出来事と出くわすと、自動的にどんどん出てくるので、あまり私たちは意識しないのです。
しかし「私にはこういうクセがある」とわかっていれば、「あれ? 今日はやたら悲しくてやる気が湧かないな。何か考え方のクセにつかまっていないだろうか」と自己点検を始める契機になります。
考え方のクセの一つに、十分な証拠集めをしないままに結論を出してしまうことがあります。長く生きていると、これまでの経験則から「こうに違いない」とわかった気になってしまい、判断を誤る場面はありませんか? はっきりした証拠がないのに、「きっとこうに違いない」と結論を急いでしまうのです。しかも本人にはその自覚がありません。なぜなら誰しも、「自分が見ている現実は正しい」と信じているからです。

