部下との信頼関係を失う危険な「思い込み」

月曜日、入社3年目の会社員エンドウさんは、社内プレゼンの資料作成を上司から頼まれました。締め切りは金曜の午後6時。火曜の朝、上司から進捗を確認されました。エンドウさんは「今、整理中です」と一言言っただけでした。上司は内心こう思いました。「またギリギリまで手をつけていないな。これは間に合わないぞ」。

しかし、これは推測であって、事実ではありません。進捗が本当に遅れているかどうか、データや中間成果物を確認したわけではありませんでした。それにもかかわらず、上司は「きっと遅れている」と結論づけたのです。これが「根拠がない推論」です。

この思い込みの背景には、上司の経験が影響していました。以前、別の部下が似たような返答をしたとき、実際に締め切りに遅れたことがあったのです。その記憶が“データベース”のように脳に残っていて、「あのときも遅れた=今回もそうだ」と短絡的に結びつけてしまったのでしょう。

私たちは、証拠を「今の事実」からではなく、「昔の出来事」から引っ張ってくることがよくあります。こうして過去の失敗が、現在の判断を曇らせるのです。

この考え方のクセを放置すると、上司と部下の間に不信感が生まれます。

たくさんの指をさされ拒否感を示すビジネスマン
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チームの停滞を防ぐ「思考の整理術」

上司は「どうせ遅れる」と決めつけ、細かく口出しし、部下は「どうせ信用されていない」と感じ、報告を控えるようになるのです。結果として、遅れが本当に発生する――という予言の自己成就が起こるのです。つまり、「根拠がない推論」は、部下の行動を萎縮させ、チーム全体のパフォーマンスを下げてしまうのです。

上司として大切なのは、「現在の証拠」と「過去の印象」を分けて考えることです。そのために、次のように整理してみましょう。

・現在わかっている事実は締め切り:金曜18時、火曜時点で「整理中」との報告あり、Google Drive上で新しいスライドデータが更新されている
・推測にすぎない部分:「間に合わないはず」「また遅れるに違いない」「仕事の優先順位が低いのだろう」

こうして可視化してみると、「私は今、“証拠の乏しい推論”をしているな」と気づくことができます。気づくことこそが、修正の第一歩なのです。上司はその後、エンドウさんにこう声をかけました。「金曜の完成前に、途中の段階を一度見せてもらえますか。60%の完成度でいいです。早めに確認しておけば、手直しも一緒にできますから」。