人間の「性的な妄想」には、どのような意味があるのか。イェール大学心理学名誉教授のポール・ブルーム氏の著書『苦痛の心理学』(草思社)より、一部を紹介する――。
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写真=iStock.com/Urupong
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Pornhubをビッグデータ解析した結果

性的な想像については、以前よりもはるかに理解が進んだ。それはビッグ・データのおかげでもある。特に、ポルノグラフィックなウェブサイトで人がどのような検索をするか、ということについて大規模な分析調査が行われたことが重要だ(※1)。こういうことはアンケート調査をするわけにもいかない。仮にアンケートをしたとしても、恥ずかしいので正直には答えず、嘘を答える人が多いはずだ。だが、皆がどういうポルノグラフィーを選んで見ているかがわかれば、どういうもので興奮する人が多いかをかなり正確に知ることができるだろう。

利用できるデータ・ソースはいくつもあるが、最大なのは、ポルノグラフィー・サイト“Pornhub”の何十億件という検索記録である。それを見れば、人々が何を好んで見ているのかだけでなく、若年層、中高年層の違い、ゲイとストレートの違い、男性と女性の違いなどもわかる(この種のサイトは、グーグル・アナリティクスを利用して、訪問者一人一人の人格特性を非常に正確に把握しているのだ――そう知ると驚く人もいるだろう)。

検索上位の語句を見てみると、だいたいは多くの人の予想通りである。ほとんどは、その人たちが現実の生活でも見たい、あるいは体験したいであろう身体的特徴、身体の部位、性的な行為の名前である。想像の世界は「簡易版の現実世界」であるとする説を裏づけるようなデータと言えるだろう。想像を現実の代替物にしているわけだ。

検索上位の「意外なキーワード」

だがよくわからないこともある。たとえば、アニメのポルノグラフィーの人気が非常に高いということだ(※2)。セス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツは、フロイト的に子供時代に抱えた強迫観念のせいではないか、と推測している。男性の間で「ベビーシッター」が人気のキーワードになっているのもその証拠ではないかという(だがこれは、単にポルノグラフィーを見る男性の一部にとって、身近によく接する若い女性がベビーシッターなだけ、という可能性もある。よく接するから妄想の対象になりやすいということだ)。

近親姦に関するキーワードもある。スティーヴンズ=ダヴィドウィッツが調査した時、Pornhubの検索キーワードのトップ100のうち、16は近親姦に関するものだった。特に多く検索されたトピックは母と息子の近親姦に関わるものだった。女性の場合は、検索キーワードのトップ100のうち9つまでが近親姦関係で、最も多く検索されたトピックは父と娘の近親姦に関わるものだった。

※1: 『性欲の科学:なぜ男は素人に興奮し女は「男同士」に萌えるのか(坂東智子訳、CCCメディアハウス、2012年)』Ogi Ogas, Sai Gaddam, and Andrew J. Garman, A Billion Wicked Thoughts(Penguin,2011),『誰もが嘘をついている:ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性(酒井泰介訳、光文社、2018年)』Seth Stephens- Davidowitz and Andres Pabon, Everybody Lies: Big Data, New Data, and What the Internet Can Tell Us About Who We Really Are(Dey Street, 2017).
※2: 『誰もが嘘をついている』Stephens-Davidowitz and Pabon, Everybody Lies.