21世紀の企業はどんな人たちを「カモ」にしているのか。著作家の大田比路さんは「資本主義の歴史を見ていくと、19世紀は労働者、20世紀は消費者がカモにされていた。テック資本主義にアップデートされた21世紀は、さらに様相が異なる」という――。

※本稿は、大田比路『2030年の世界を生き抜くための テック資本主義超入門』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

チェーンでパソコンに手を固定されている人
写真=iStock.com/OcusFocus
※写真はイメージです

資本主義社会における「カネを儲ける手段」

長期にわたってカモにされてきた人々は、自分がカモにされている証拠を突きつけられても、それを否定するようになる。彼らはもはや真実に興味がない。自分がカモにされてきた事実を自ら認めるのは、耐えがたい苦しみだからだ。こうして詐欺師は彼らを支配する。いったんその支配が完成すれば、そこから抜け出ることは不可能に近い。

―― Carl Sagan, The Demon-Haunted World

Big Techの台頭によって、中世より続いてきた資本主義は、新たな段階に入った。テック資本主義(tech capitalism)の登場である。すなわち、デジタルテクノロジーを基盤とするテック企業(tech companies)が、資本主義の主役となった時代状況のことだ。

まず歴史の話から始めよう。

資本主義(capitalism)なるものが、地球上にいつ現れたのか。正確なことは誰にも分からない。ただ確かなのは「カネを儲ける手段」を手にした人間たちが、材料と機械と労働力を使って、さらなるカネを無限に追い求める――その仕組みが、いつのまにか始まっていた、ということだ。

19世紀は、その資本主義が華開いた時代だった。その頃、資本主義は、純粋なメカニズム(mechanism)だった。カネを持つ「資本家階級」が、カネを持たない「労働者階級」を利用して、彼らの労働力を生涯にわたって搾り上げていく――ただそれだけの単純な仕組みだった。

19世紀は労働力搾取、20世紀は消費

20世紀に入ると、何かが変わった。いつのまにか、労働者たちは、労働だけではなく、消費(consumption)なるものを一生やらされるようになっていた。

20世紀初頭から、資本主義は、後期資本主義(late capitalism)なるものに移行した。後期資本主義の特徴はいくつもあるが、最も重要なのは、労働者(worker)が消費者(consumer)としても大々的に利用されるようになったことだ。

流行の服を買え。車を買え。マンションを買え。週に一回は外食しろ。海外旅行に行け。子供を大学に進学させろ。リフォームしろ。生命保険に入れ。損害保険に入れ。がん保険に入れ。労働者たちの人生全体にわたって、多種多様な消費イベントが画一的に押し込まれていき、そのために、毎月の賃金が注ぎ込まれていった。