シカゴを州都にもつイリノイ州は、白人が全人口の約65%を占め、その人口動態は「アメリカの縮図」と言われる。また、この地域は「ハートランド」と呼ばれ、大小の湖とトウモロコシ畑、牧草地の広がる風景は、米国人の精神的な故郷でもある。齋藤は妻と子どもを連れて、シカゴの中でも白人の多い郊外の地域に住んだ。

「『シカゴの人は気難しい』などと言われますが、コミュニティの中に入ればとても親切。たとえば郊外の住宅地にはフェンスがなく、行き来が自由です。子どもたちは、隣の家の冷蔵庫の中身まで知っている。それぐらい密度の濃い付き合いができました」

齋藤は「溶け込むには、現地の文化へのリスペクトが重要だ」と話す。

「たとえばアメリカ人はアメフトと野球が大好き。だからミネソタで仕事をするなら、NFLの『バイキングス』とMLBの『ツインズ』の歴史は知っておいたほうがいい。逆にそうした興味がないと、人付き合いは続かない」

島田や齋藤は、現地社会に深く入り、事業の深耕を担った。2人の駐在期間は同社の中でも異例に長い。全社平均では5年8カ月で、現在86人が駐在員として海外にいる。国際事業本部長の齋藤は「駐在は5~7年をひとつの単位と考えている」と話す。

駐在には多大なコストがかかる。送り出す人材には、将来への成長期待もあるだろう。ただし齋藤は「キャリアのために海外駐在を希望するような人は大成しない」と釘を刺す。

「言葉を学び、文化を知るとは、赴任先を好きになるということ。そうでなければ、仕事になりません。社内でのキャリアを考えて、海外赴任を希望するような人はお断りです。私は海外赴任していたとき、日本に戻ってきても、社内の人には会わず、最低限の用事を済ませたらすぐに帰っていました。帰国したときのポストを考えながら仕事をしているような人は、結局どっちもうまくいかないでしょうね」

300年の歴史をもつ伝統企業の活路は、群れないサムライたちが拓いた。社内政治に「順応」した人材は、海外市場への「適応」もできないだろう。

(遠藤素子=撮影)
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