※本稿は、遠藤貴則『ザ・ニューロマーケティング』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
単なる事実よりも「物語」のほうが記憶に残る
現代の消費者は、製品やサービスの機能や価格だけでなく、その背景にある物語や価値観に大きな関心を寄せています。
雑多な情報が溢れる環境の中で、記憶に残る強い印象を与えるためには、ブランドの世界観を明確に示し、「共感」「感動」「憧れ」といった感情を呼び起こすことが重要です。
そのための有効な手段がストーリーテリングであり、近年のブランディングやPRにおいて不可欠の要素となっています。
ブランドストーリーを適切に構築すると、次の3つの効果が期待できます。
●顧客の記憶に強く残る
ストーリーを伴う情報は、「単なる事実」よりも記憶に定着しやすい。
●感情的価値を高める
物語に共感した顧客はブランドを「自分ごと」として捉え、ロイヤリティが向上する。
●差別化とアイデンティティ確立
競合が多い市場でも、独自のストーリーがあれば強い存在感を放てる。
詳しく見ていきましょう。
ストーリーテリングは人類の進化で得た情報伝達方法
なぜ、ストーリーを伴う情報は「単なる事実」よりも記憶に定着しやすいのでしょうか。その鍵は、人類が進化してきた過程にあります。
人類は、複雑な言語によってコミュニケーションする能力を得たことで、ものすごい速さで進化してきました。
「自然界で生き抜くためには、このようなことが大事だ」「より楽しく生きるためには、このようなことが大事だ」。そのような情報は口伝として、次の世代へと継承していけるようになりました。
その継承の手法として効果的だったのが、ストーリーテリングです。
たとえば、村の長老は夜、火を囲いながら語らう場を設け、若者にこんな話をします。
「あれは祭りの前の夜だった。みんなが祭りの準備をしているそのとき、スティーブは1人、準備の手伝いもせず、東の森に入っていった。その後、スティーブを見た者はいない……」
このようなストーリーを若者は聞き、「祭りの準備は大事なんだ」とか「東の森に1人で入ったら危険なんだ」といった教訓を、それぞれに受け取ります。単に「祭りの準備をサボってはいけません」「東の森に1人で入ってはいけません」といわれるよりも、大きなインパクトとなって心に残ります。

