Nikeが“Just Do It”に込めたストーリー

Nikeは1964年に創業しました。創業当時の社名はBlue Ribbon Sports(ブルー・リボン・スポーツ)でしたが、1971年に社名をNikeへと変更しました。スポーツシューズを中心にアパレルや機器を展開する世界的ブランドです。

「革新」と「勝利の女神(Nike=ギリシャ神話の勝利の女神)」を象徴する社名にふさわしく、トップアスリートのスポンサーや画期的な製品開発で注目されてきました。

1988年から始まった「Just Do It(ジャスト・ドゥ・イット)」は、スポーツだけにとどまらず、多くの人々を奮い立たせる世界的キャンペーンとなりました。

ナイキストア
写真=iStock.com/Robert Way
※写真はイメージです

「Just Do It」は一見シンプルなスローガンですが、ここには強力なストーリー的構造が内包されています。

「消費者自身の挑戦」という物語を搔き立てる

Nikeが提示する物語の背景と脈絡を読み解くと、次のようなメッセージが見えてきます。

●課題・葛藤の提示

多くの人が「運動したい」「挑戦したい」と思いながらも、失敗したり恥をかいたりすることを恐れ、踏み出せないでいる状況を描き出します。

●主人公(消費者)が挑戦するストーリー

「とにかくやってみよう」という呼びかけで、消費者自身がストーリーの主人公になります。

主人公はブランドでもNikeの従業員でもなく、運動やチャレンジを志す消費者そのものです。消費者自身がストーリーの主人公になりうる余地がつくられています。

●障壁を超えるための精神性

Nikeは製品を通じて「最高のパフォーマンス」をサポートし、消費者の「可能性を信じる心」を後押しします。

遠藤貴則『ザ・ニューロマーケティング』(KADOKAWA)
遠藤貴則『ザ・ニューロマーケティング』(KADOKAWA)

「プロのアスリートだけが主役」ではなく、「あなたもアスリート」と認める姿勢が共感を生みます。

●達成・変化の暗示

挑戦の一歩を踏み出すことで得られる達成感や充実感を想起させます。

あえて具体的な成功シーンを映し出さず、自分が理想に近づくイメージを想起させる構成で、受け手の想像力を搔き立てます。

「Just Do It」は、単に「行動しろ」と促すだけでなく、人々の内面にある恐れや期待といった葛藤を意識し、「行動すれば何かが変わる」「自分にもできる」という物語を成立させる「フレームワーク」でもあるのです。

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