ストーリーに興味のある人間だけが生き残った
時は流れ、現代を生きる人間の脳は、当時以上にストーリーに興味を持つような構造になっています。
それはなぜかといえば、「ストーリーに興味を持たなかった人間」、つまり「長老のいうことを聞かなかった人間」は、危険な場所に行ったり、危険なことをしたりして命を落とし、自然に淘汰されてきたからです。ストーリーに興味を持った人間だけが生き残り、子孫を残すことができた。そのために人間の脳は、ストーリーに興味を持つようにできている、というわけです。
マーケティングの観点でいえば、人間は「ストーリーのある商品・サービスは重要である」「ストーリーのない商品・サービスは重要ではない」と判断します。
商品・サービスにストーリーがなければ、売れないどころか、興味を持ってもらえないのです。
差別化に成功したレモネード店の「ストーリー」
また、ストーリーには、顧客ブランドを「自分ごと」として捉えてもらい、競合との差別化を容易にする効果もあります。
アメリカの、とあるレモネード店の話がわかりやすいでしょう。
ある少年が、通っている小学校で、世の中には自分と同い年でも、事情があって下半身が不自由になり、歩けなくなってしまった子どもが多くいることを学びます。その中には、金銭的な事情で車いすを買うことができない家庭もあるといいます。
衝撃を受けた少年は、そのような子どもたちに車いすを寄付することはできないかと思い立ちます。
しかし両親に相談すると、こんな言葉をかけられました。
「確かに、私たちが親として、あなたにお金を渡し、あなたが車いすを買って、それを寄付することはできる。でも、それでいいの? あなたが本当にやりたいのは、自分で稼いだお金で車いすを寄付することじゃないの?」
少年は「そうだ!」と気づき、「自分にできるお金稼ぎは何だろう」と考え、屋台でレモネード店を始めました。
レモネードが売れるたびに屋台にステッカーを貼り、「ここまで売れたら車いすを1台買える」という位置にラインを引いて、目標までの道のりを見えるようにしました。
これは自分自身のモチベーションのためだったのですが、同時に、お客さんにとってのモチベーションにもなりました。
「レモネードを売って、車いすを買う」という少年の物語に、お客さんは「レモネードを買う」という形で参加し、「自分がレモネードを買うことで、少年が車いすを買う一助になるのだ」という感情的価値が高まったのです。
加えて、少年のレモネード店は「ただ、店主が生活のために経営しているお店」と違うという点で、強烈な差別化となりました。

