※本稿は、天野篤『血管と心臓 こう守れば健康寿命はもっと延ばせる』(講談社ビーシー/講談社)の一部を再編集したものです。
医薬品不足を招いたジェネリックメーカー不正
ここ数年来、全国の医療機関や薬局で深刻な医薬品不足が続いています。咳止めの薬、糖尿病治療薬、止血剤、抗うつ薬など、さまざまな薬が入手困難になっていて、処方を断られたという患者さんも少なくないはずです。
こうした医薬品不足の大きな要因とされているのが「ジェネリック医薬品(後発医薬品)」の供給不足です。
ジェネリックは、簡単にいえば「先に開発された新薬(先発薬)と薬効成分は同じで、製剤にかかわる基剤成分などが異なるものがある薬」です。新薬のような開発費がかからないため薬価が3~5割ほど安くなるので、患者さんの負担は軽減されます。また、膨らみ続ける医療費を抑制したい国もジェネリックの利用を強く推進したことで、そのシェアは令和6年度(2024年4月~2025年3月)には、「86.5%」(日本ジェネリック製薬協会によるシェア分析)まで大きく上昇しました。
そんなジェネリックの急拡大が、結果的に今の医薬品不足につながります。ジェネリックを製造・販売している製薬会社で不正が相次ぎ、多くのジェネリックの供給がストップしてしまったのです。
2020年12月、小林化工が製造する水虫治療薬(抗真菌剤)に睡眠導入剤の成分が混入して死亡などの健康被害が発生した事件を皮切りに、大手の日医工を含む複数の会社で製造工程の問題が見つかり、15社が業務停止や改善命令を受けています。2023年10月にはジェネリック業界最大手の沢井製薬で、胃潰瘍などの治療薬の品質試験に不正が発覚し、自主回収が進められました。一連の不祥事によってジェネリックの出荷が次々にストップしたため、同じ成分の医薬品メーカーに注文が殺到しました。しかし製造や供給には限界があり、すべてには対応できません。こうした事態があちこちで起こったことで出荷が制限される薬が続出したのです。

