物価高騰で多くの飲食店が「苦渋の決断」として値上げを発表するなか、「絶対に値上げはしない」と断言する経営者がいる。テイクアウト海鮮丼チェーン「丼丸」の創業者、大島純二会長だ。コメの価格は倍になりながらも、500円(税抜き)という価格を維持できるのはなぜなのか。秘密は、単なるコストカット術ではない、創業者自身の“狂気”とも呼べる商売の哲学と、46年分の「恩返し」にあった。(取材・構成=フリーライター・堤美佳子)

物価高でもワンコインを続けるテイクアウト海鮮丼店

都営新宿線大島駅(東京都江東区)の出口すぐ。激安のから揚げ店や弁当屋が軒を連ねる、下町情緒あふれる一角に、青い波しぶきの看板が目に飛び込んでくる。海鮮丼のテイクアウト専門店「笹舟 丼丸」大島店だ。

青い波しぶきの看板が目を引く丼丸大島店
撮影=プレジデントオンライン編集部
青い波しぶきの看板が目を引く丼丸大島店
数十種類のメニュー写真が貼られた店内
撮影=プレジデントオンライン編集部
数十種類のメニュー写真が貼られた店内

2、3人も入れば窮屈になってしまう店内で、壁を埋め尽くすのは、色とりどりの海鮮丼の写真だ。サーモンやネギトロなど5種類以上のネタがのった一番人気の「丼丸丼」をはじめ、定番の「まぐろ丼」、あさりがたっぷり乗った「深川丼」まで、その数60種類以上。これだけの種類が、ワンコイン(税抜き500円、税込み540円)というのは、この物価高の時代に信じがたい光景だ。

わずか12坪の店舗で月600万円を売り上げる常識破りの店を一代で築いたのが、創業者の大島純二会長だ。

自慢の海鮮丼を手に取る大島会長
撮影=プレジデントオンライン編集部
自慢の海鮮丼を手に取る大島会長

「大島店は、原価率は57%を目指しています。でも、正直今は、人件費やコメの高騰もあって60%ほどです」

そう明かすのは、現社長の亀山政典氏だ。

「40円引きの日」は客数が倍になる

飲食店の平均原価率が30%と言われる中、この数字だけでも異例だが、話はこれで終わらない。月に3回の特売日「0の日」には、税抜き500円の丼が税込み500円になる。

「客数は180人が350人と倍近くになり、売上は倍以上に跳ね上がる。ただし、原価率は最も高いもので約80%に。正直きついですよ。でも、たった40円でこれだけお客さんが喜んでくれる。これが本質なんですよね」

なぜ、こんな無謀とも思える商売を続けるのか。その問いに、創業者の大島会長はこともなげに答える。

「物価や材料費が上がったからって、『こっちも苦しいから値上げしよう』じゃ、一方的じゃないですか。(1979年の創業以来)40年以上も商売させてもらったんだから、感謝の恩返しですよ。その気持ちがなきゃ、商売は続きません」

大島会長の口から出るのは「感謝」と「恩返し」ばかり。その言葉は、彼の商売の歴史を知れば、単なる綺麗事でないことがわかる。