※本稿は、東島威史『不夜脳 脳がほしがる本当の休息』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
「長い睡眠」は本当に必要か
外来で、僕は患者さんとよくこんな会話をする。
「夜眠れなくて……強い睡眠薬をください」
「寝つきが悪いんですか? それとも夜中に起きちゃいますか?」
「両方です。あまり眠くならず、やっとうとうとしても目が覚めてしまうんです」
「昼間、お仕事やご予定に差し支えるほど眠気が出ていますか?」
「仕事はもう、引退しています。それに日中もそんなに眠くならないんです。たまに眠くなるときは、お昼寝しちゃいます」
「では、何がお困りですか?」
「睡眠時間が短いことです」
文字にしてみると、なんだか出来がいまいちのジョークみたいなやりとりだが、本当に多くの方が、「睡眠の苦しみ」を訴えてくる。
僕はこうした患者さんには、「眠れないこと」以外の問題点が見つからない限りは、まず「気にしすぎ病」であることを説明する。
もちろん「気のせいですよ!」と切り捨てる意図はない。脳にも体にもトラブルがなく、生活にも支障がないなら、睡眠不足の治療は必要ないのだと、ご理解いただくようにお話しするということだ(その上で「だけど先生……」と強く希望されるのであれば、薬を処方することもある。基本的には押しには弱いタイプだ)。
睡眠不足は「悪ではない」
睡眠時間が短く、それでいて特に眠くもないなんて、慢性睡眠不足で眠気と闘う日々を送る僕からしたら、うらやましい限りだ。
こうした悩みは、自然界にはおそらく存在しない。動物も、そして昔の人間も、「眠くないのに薬まで飲んで寝ようとする」なんて、発想すらないはずだ。
断っておくと、睡眠薬はとても良いもので、僕も生活リズムが乱れて、「ものすごく眠いけど眠れない」といった際にはためらわずに内服している。
しかし、クスリはリスクであることは確かだ。睡眠薬に全くリスクがないなら、僕もこんな問答は最初からせずにあっさりと出している。
ものによっては日中も眠気が残り、1日フラフラしたり、筋弛緩作用で転倒したり、長期連日服用では認知症のリスクになったり、身体依存になったりする。
最近では脳の老廃物を洗い流す作用を弱める、というリスクも報告されており、「睡眠薬を飲んだために眠りの質が落ちる」なんてこともある。実際に、「必要がないのに夜中に睡眠薬を飲んで、日中ずっと眠い状態で過ごす」という患者さんも存在する。
「眠れない」という人は、「眠くない」ということは、脳と体が「寝なくても大丈夫」といっているということだと受け止めてほしい。

