いつまでも若々しい脳を維持するにはどうすればいいか。脳神経外科医の東島威史氏は「積極的に運動するといい。脳を鍛える効果のあるたんぱく質やホルモンが活性化するかどうかは、運動の種類によって異なる」という――。

※本稿は、東島威史『不夜脳 脳がほしがる本当の休息』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

トレーニングジムで背中を伸ばす女性
写真=iStock.com/kazuma seki
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脳は「筋肉」によって鍛えられる

脳と筋肉は「使うほど鍛えられる」という共通点がある。そして体の筋肉を使ってトレーニングをすることで、脳を鍛える効果もあるのだ。その鍵を握るのは、「BDNF(脳由来神経栄養因子)」というたんぱく質だ。

BDNFは、深いノンレム睡眠中(徐波睡眠)に活性化することがわかっている。

BDNFは神経細胞の成長やシナプスの可塑性を促し、記憶力や学習能力の維持に欠かせない。神経保護作用もあり、睡眠中の修復作業やメンテナンスも行う。つまり、このBDNFこそ、「脳のためにはぐっすり眠らないといけない」という根拠ともなる重要なたんぱく質だ。

ノンレム睡眠中に活性化すると言われているBDNFだが、活躍の場は睡眠中「だけ」ではない。覚醒中にもBDNFは登場する。

たとえば知的刺激(読書・語学の習得)を受けると、シナプスの新たなネットワークづくりが促進され、海馬や前頭前野という脳の一部分でBDNFが増加する。

また、のちに紹介する断続的断食など軽度なストレスでも活性化するし、日光浴でも効果があると言われている。

有酸素運動やリズミカルな全身運動が効果的

そして特に効果的なのは、有酸素運動やリズミカルな全身運動だ。

認知症などのない男女120人(平均67歳くらい)を2つのグループに分け、運動効果を調べた2011年のアメリカ・ラシュ大学の研究がある。

グループA:ウォーキングなどの有酸素運動
グループB:ストレッチなど、筋トレではない筋持久系の運動

12カ月後の脳を比較したところ、有酸素運動をしたグループAの海馬はわずかに体積が増え、血中のBDNF濃度は上昇し、記憶力も改善されていた。ストレッチをしたグループBは、特に変わらない、もしくは年相応に記憶力がやや衰えていた。

高齢者であっても、有酸素運動で物理的に脳は鍛えられていたのだ。

注目したいホルモン「オステオカルシン」

もう一つ、「オステオカルシン」というホルモンも、脳機能に良い影響を与えることがわかってきた。

オステオカルシンは骨から血中に放出されるホルモンだ。単純に「骨をつくる役割」とされていたが、近年の研究で「骨が脳や代謝とやりとりできるようにつなぐ、神経伝達物質をアシストする役割」もあるとわかってきて注目されている。

最高司令塔である脳には、怪しいものを寄せ付けないよう、「血液脳関門」というチェックがとても厳しい関所がある。オステオカルシンはここを「毎度どうも!」と顔パスのように難なく通過して脳内に入り、記憶力や感情の調整、代謝に関わると考えられているのだ。