※本稿は、東島威史『不夜脳 脳がほしがる本当の休息』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
時間感覚の差はどこから生じるのか
「30秒経ったと感じたら、ストップウォッチを止めてください」
「時間感覚」は、脳神経外科に携わる僕にとって興味深いトピックだ。脳と時間の関係は依然としてブラックボックスで、だからこそ惹かれてやまないものがある。
有力な説のなかに、「時間感覚は心拍数と関係がある」というものがある。心拍数が速い状態と遅い状態では、時間の感じ方がだいぶ違うとされている。
名探偵コナンの映画では(劇場版『名探偵コナン 天国へのカウントダウン』)、少年探偵団の光彦が「30秒当てゲーム」を提案する。これは心の中で30秒を数えてストップウォッチを止める遊びだ。同じく探偵団の歩美は30秒をぴたりとカウントし、彼女はこんな意味のことを語る。
「コナンくんの隣にいるとドキドキして、胸の鼓動で30秒経ったとわかる」
まるで「適度な心拍数が時間感覚を研ぎ澄ます」と証明するエピソードのようだ。
コナンに好意を寄せる歩美の時間感覚は正確だったが、なんといっても彼女は若い。だが、年齢を重ねたらどうだろう?
高齢者の動作が遅い要因は「時間感覚」
先日、大通り沿いの横断歩道が見えるコーヒーショップで、資料を読んでいたときのこと。80代くらいの男性が、ゆっくりと道路を横断していた。幸い、赤に変わるまでは時間をたっぷりとっている信号だったが、「渡りきれないのではないか」と心配になるほど、その歩みはのんびりとしていた。
高齢者の動作が遅くなるのは、歩行に限ったことではない。話すこと、ものを動かすこと、文字を書くこと、食べること、すべてのスピードが遅くなる。これは老化現象といっていいだろう。
人間の時間感覚を定量化するために、よく使われている手法の一つに「タイムプロダクション」がある。光彦が提案した「30秒経ったと感じたら、ストップウォッチを止める」と同じ方法である。
これを全くまっさらな状態でやると、高齢者はだいたい35秒ぐらいで「よし! 30秒経った」とストップウォッチを止める。外の世界の30秒が、彼・彼女たちの中では1.2倍になっているのだ。
日本の場合、横断歩道の「青」の最長時間は2分程度だというが、ゆったりと横断歩道を渡る高齢者は、もしかしたら2分ギリギリになっているというのに「まだ20秒近くある」と悠々としているのかもしれない。


