脳の活性化には運動や読書がよいという言説は根強い。しかし、脳神経外科医の東島威史氏は「一見体に悪そうな遊びも、上手に活用すれば脳を鍛える強力な手段になり得る」という――。

※本稿は、東島威史『不夜脳 脳がほしがる本当の休息』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

スマートフォンでゲームをする男性
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疲れない脳を「スマホゲーム」で鍛える

「スマホは脳に良くない」という意見は根強い。確かにスマホをずっと見ていると交感神経が優位になるし、脳波も「仕事モード」になる。

いわゆるスマホ中毒の実態は、脳波の「β波過剰」だ。常に注意・情報処理・選択・スクロールという軽い仕事状態なので、注意力や集中力が低下するという意見もある。

だからといって、「スマホは脳に良くない!」「スマホなんて見ずに、読書をして、運動するべきだ!」という考え方は明らかに行きすぎている。

医療の現場は、いつも健康への「ベネフィット」と「リスク」のせめぎ合いだ。リスクがある、とは裏を返せば「影響がある」ということで、うまく使えばベネフィットもある、ということだ。

スマホも同様で、正しく使用すれば健康への大きなベネフィットを生む。最近はスマホのような情報通信機器を用いて健康を促進することを「e-health」と呼び、エビデンスも蓄積してきている。

実はスマホは「悪者」とは限らない。それどころかスマホを使って、脳を鍛えることも可能なのだ。

ここでは「スマホゲームで脳を鍛える」という観点でその効果を見ていこう。

高齢者におすすめの「レーシングゲーム」

集中力とは、あるタスクを処理中に、他の刺激による干渉をシャットアウトする能力である。つまり、「マルチタスクをする際の切り替え」と表現できる。

高齢ドライバーの痛ましい事故はいまや社会問題であり、その原因の一つは、集中力の低下だ。運転は、同時にさまざまなことをこなさなければならないマルチタスクの塊で、集中力は不可欠だ。

前方を見て、ミラーを見て、足はブレーキとアクセルを踏み分け、飛び出してくる歩行者や左折・右折の判断などを同時多発的にこなす。簡単なようでいて、集中力が衰えると切り替えがうまくいかず、事故につながる。

ところが、運転ならぬ「レーシングゲーム」で、加齢による集中力低下を改善するという有名な研究がある。

アメリカで開発された集中力アップ用のレーシングゲーム「Neuro Racer」は、運転しながら他のタスクを一つだけこなすというものだ。

「一時停止」「進入禁止」「Uターン禁止」などいろいろな標識が画面上に出てくるので、「進入禁止」の標識が出たときだけボタンを押すといった設定になっている。

この「レーシングゲームによるマルチタスク訓練」を1日1時間、週3回のペースで1カ月やりきると、半年間にわたって集中力が強化される効果があった。